おじさん少年の記

いつまでも少年ではない。老いもしない。

【各話読み切り】ざんねんマンと行く~疲れた現代人への応援歌

【ざんねんマンと行く】 ~第44話・日常に埋もれゆく性(さが)からの脱皮(上)~

ブルルルル枕元でスマホのバイブ音が響いた。日曜の朝なんだけど、今日も今日とて早いこってすなあ。人助けのヒーロー・ざんねんマン。活動が知られるにつれ、来客・電話・各種勧誘のアプローチも増えてきた。布団でぬくぬくと過ごす時間が短くなるのはちょ…

【ざんねんマンと行く】 口下手な居酒屋大将のささやかなる挑戦

日はとっぷり暮れたが、玄関の暖簾(のれん)が揺れる気配はまだない。駅前の小さな居酒屋。切り盛りする50代の勝(まさる)は、テレビの野球中継を見るともなく眺め、「だめだコリャ」と苦笑いした。会社を早期退職し、夢膨らませて始めた自分の城。若い…

【ざんねんマンと行く】 第44話・純粋無垢な少年少女にこそ見えるものがある

「ともだちが、しにそうなんです」 たどたどしい平仮名に、助けを求める者の切なる気持ちがにじんでいた。 人助けのヒーローこと、ざんねんマンの自宅に届いた一通のハガキ。差出人の住所は鹿児島県指宿市とあった。文字を覚えたばかりの子供だろうか。とに…

【ざんねんマンと行く】 第43話・幽霊界の原点回帰

う~ら~め~し~や~ 草木も眠る丑三つ時(午前2時)。布団をかぶっていびきをかいている耳元で、薄気味悪いかすれ声が響いた。 背筋に嫌な汗がにじむ。人助けのヒーロー・ざんねんマン、実はかなりの怖がりだ。頼む、聞き間違いであってくれーと願いなが…

【ざんねんマンと行く】 第42話・人知れず積む善行

「さーいよいよ長丁場の始まりです!感動の瞬間を、捉えられるか?!」玄関前で、リポーターがやけに高いトーンで叫んだ。各テレビ局が折々に手掛ける、24時間密着シリーズ。病院、ポリス、コンビニ・・と、あらゆる対象をネタにし尽くし、もはや残るトピ…

【ざんねんマンと行く】第41話・矛と盾

この年になって、ささいなことで頭を悩ませるとは。まったく、ただの頭でっかちの、でくの坊か。俺は。 中空を見上げ、自嘲気味に「だめだこりゃ」とつぶやいた。 黒縁眼鏡にスーツをピシりと着こなした姿は、まさに学者然としている。名の知られた大学で論…

【ざんねんマンと行く】 第40話・「黒幕」との対決

ピンポーン アパートのチャイムが鳴った。古い建物だから、誰でも敷地に入ってこれる。面倒だけど、結構面白い出会いもあって、悪くないんだよな。 玄関ののぞき穴の向こうには、ビシッとスーツを決めた中年の男が立っていた。 日陰なのにグラサン。片手には…

【ざんねんマンと行く】 第39話・本当のヒーロー

日差しが強まるほど、木陰の心地よさが増してくる。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。週末の昼下がり、都内のとある大きな緑の公園でプチ森林浴を楽しんでいた。大木のそばに腰を降ろし、ノンアルコールの缶ビールをプシューと空ける。ああ、最高だ。 …

【ざんねんマンと行く】 第37話・暴露系ユーチューバーとの対決

ピンポーン 日曜日の午後。アパートのチャイムが鳴った。 カップラーメンをすする手を止め、インターホンの画像をのぞいた。 びっくりした。 知らないお兄さんが、カメラ回してるよ。 人助けのヒーローことざんねんマン、不気味な訪問者に少し身構えながらも…

【ざんねんマンと行く】 第36話・「ツイてない」男の逆襲

まったく、運に見放された人生だ。 太郎は沈んでいた。先日、外回りの仕事で大通りを歩いていると、空から鳩のフンが降ってきた。スーツの肩にびちゃり。ハンカチで必死にふいたけど、シミがばっちり残っちゃった。おかげで、営業先で変な顔されてしまったよ…

【ざんねんマンと行く】 第35話・AIに勝るもの

江戸は外堀を望む、東京・市ヶ谷。囲碁文化の発信拠点である〇本棋院で、役員たちが苦い顔を突き合わせていた。 ファンの掘り起こしが、進まない。 SNSの時代だ。スマホを見れば動画サイトに目がいってしまう。イケてる少年少女、お兄さんお姉さんたちが、キ…

【ざんねんマンと行く】 第34話・妖怪の世界にもゴタゴタはある

風もないのに、窓がガタガタ揺れている。 深夜、都内のアパート。人助けのヒーローこと「ざんねんマン」の眠りを、やや不気味な音が揺り起こした。布団をまくり、満月の照らす夜空のほうを見やる。と、何やら白い布のようなものが打ち付けている。 ガラガラ …

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(下)~

ざんねんマンも、人事部の小手川も予想しないところで、冴えないはずの体験談が希望の光をもたらしていた。 放心の体で椅子にたたずんでいたのは、企画開発部の管理職、坂本。 アラフィフ。有能な技術者で、社交性もあって順調に職位を上っていたが、会社組…

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(上)~

「実績を積む極意」 垂れ幕にしたためた演題に、経営陣の期待が垣間見えた。 とある食品加工メーカーが開いた、新入社員研修会。大ホールに集結した若手約50人の表情には、一様に期待とほどよい緊張の色がにじんでいた。 「えー本日は、会社組織におきまし…

【ざんねんマンと行く】 ~第39話・口下手な居酒屋大将のささやかなる挑戦(中)~

そうだ、今日はこの大将を助けないといけないんだった。悦楽の世界からふと我に返ったざんねんマン、無言でうつむく大将の頭頂部を眺めながら、策を練った。まず、話をしようにも会話が続かない。どうしたもんか。こうなったら、独り言作戦でいくか。ざんね…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(下)~

「究極の自己チュー人間」とうたい、自嘲気味に乾いた笑いをあげる三好に、傍らでへべれけ気味のざんねんマンが口を開いた。 三好さん、気取ったこと言ってますけどね、ぜんぜん「究極」じゃないですよ。まだまだ修行が足らんようですなあ。 予想もしない言…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(上)~

軽くなった徳利を、未練がましく振ってみた。ああ、残りちょびっとか。 駅前のにぎやかな居酒屋。寂しい懐事情もあり、カウンターでチビチビやっていると、不意に隣から声を掛けられた。「どうですか、一杯」 徳利を傾けてきたのは、黒縁眼鏡が印象的なスー…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(下)~

自らのダメ具合をひけらかし、自嘲気味の青年に、ざんねんマンは一瞬たじろいだ。が、返しもなかなかすごかった。 まあその、すごいもんですなあ。そこまでダメなところを見抜けるとは。もうこうなったら、徹底的にダメダメ具合を突き詰めて探してみたらいい…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(上)~

「ああ、僕はだめだ」 哲也(てつや)はため息をついた。頑張って書いた大学のレポートの評価が、合格ギリギリラインの「可」だった。10日間、図書館に通い詰めて仕上げたのに。僕は、本当に才能がないなあ。 まあ、振り返れば「良」も幾つかは取ってきた…

【ざんねんマンと行く】第39話・AIに越されそうな男

はぁ~ カウンターの隣から、やたらため息が漏れてくる。なんだようまったく、辛気臭いなあ。 駅前のこじんまりした居酒屋。人助けのヒーローことざんねんマンは、熱燗をチビチビやりながらしっぽり「お一人様」を楽しんでいたが、途中からやってきたサラリ…

【ざんねんマンと行く】 ~第38話・悪人正機(下)~

青年のうめきが、ざんねんマンの胸にも重くのしかかった。悪をなし、そのことを悔いている人間に、なんと言葉を掛けたものか。これまで助けてきた人たちの多くも、さまざまな悩みを抱えていた。乗り越える道を探すのは、容易ではなかった。 だが、ざんねんマ…

【ざんねんマンと行く】 ~第38話・悪人正機(上)~

はあぁぁため息が、また漏れてきた。駅前の大衆居酒屋。カウンターで週末の一杯を楽しみにきた、人助けのヒーロー・ざんねんマンは、隣から漂ってくる重い空気におされたか、ジョッキをあおる手を止めた。チラリと横に目をやってみる。スーツ姿の若い男性だ…

【ざんねんマンと行く】第37話・ネチネチ上司との闘い

「ガミガミ、ネチネチ、毎日うるさいんです」 新着メールを開くと、呪詛(じゅそ)の言葉が連綿とつづられていた。これまた、やっかいな仕事になりそうだ。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。活動を始めて1年が過ぎ、どんなエマージェンシーコールにも…

【ざんねんマンと行く】 ~第36話・こころを伝えることに技巧はいらない(下)~

(あらすじ) 花咲きほこる奈良の都の大通りに、一人力なくたたずむ青年がいた。遠く九州を目指す、防人(さきもり)だ。ネットも電話もない時代。生きてふるさとの関東に帰れる見込みもなく、ただひたすら「お父さん、お母さんに愛の言葉を伝えたい」と願う…

【ざんねんマンと行く】 ~第36話・こころを伝えることに技巧はいらない(中)~

【(上)のあらすじ】 1000年以上昔。花咲きほこる都・奈良の大通りに、一人力なくたたずむ青年がいた。遠く九州まで防人として向かう途中。ネットも電話もない時代。生きてふるさとの関東に帰れる見込みもなく、ただひたすら「お父さん、お母さんに愛の…

【ざんねんマンと行く】 ~第36話・こころを伝えることに技巧はいらない(上)~

商人たちでごったがえす大通りを、春の陽気があたたかく包む。 ときは天平勝宝。宮殿の置かれた奈良の都は今、まさに盛りを迎えようとしていた。 喧噪とは裏腹に、通りの端で一人疲れ果てたようにしゃがみ込む青年がいた。 遠く坂東からやってきた、名もなき…

【ざんねんマンと行く】 第37話・イッシー伝説

「ともだちが、しにそうなんです」 たどたどしい平仮名に、助けを求める者の切なる気持ちがにじんでいた。 人助けのヒーローこと、ざんねんマンの自宅に届いた一通のハガキ。差出人の住所は鹿児島県指宿市とあった。文字を覚えたばかりの子供だろうか。とに…

【ざんねんマンと行く】 第36話・妻との口喧嘩に負け続けている男のささやかな願望

「お恥ずかしい相談ですが」 数ある着信メールの中に、どうも気になるタイトルがあった。 人助けのヒーロー・ざんねんマン。地味で映えないがそれなりに結果は残している男の下には、いつしか大小さまざまな相談メールが届くようになっていた。さて、今回は…

【ざんねんマンと行く】第35話・センターに立てなくても

「なんでおいらはこうなっちまったんだ」 漆黒の空間をひたすら駆けながらも、ついぼやきが漏れた。いつもの悪い癖だ。 憧れたセンターのポジションは、まぶしいあいつに奪われてしまった。いつも目立ってやがって、実にうらやましい。それに比べて俺は今、…

【ざんねんマンと行く】 第34話・OYAJI新時代

「日本では、昔から畏れられているものが四つあるといわれています」 都内の公民館で開かれた、異文化交流会。肌の色もさまざまな約40人が集った会議室で、日本人を代表して58歳の哲男がみんなに語り掛けた。 「上からいいますとですね、『地震』。『雷…