「究極の自己チュー人間」とうたい、自嘲気味に乾いた笑いをあげる三好に、傍らでへべれけ気味のざんねんマンが口を開いた。
三好さん、気取ったこと言ってますけどね、ぜんぜん「究極」じゃないですよ。まだまだ修行が足らんようですなあ。
予想もしない言葉に、ほろ酔い加減だった三好がカッと目を見開いた。「な、なんだと?!この俺をバカにするのか?!」
バカになんかしてませんよ。究極の自己チューっていうわりには、儲けも頭打ちに近づいてきてるみたいじゃないですか。かっこ悪いよまったく。
一言一言が三好の逆鱗に触れた。「あんたなあ、おごられた分際でいい気になりやがって。そこまで言うんなら、モノホンの自己チューってやつを語ってみろってんだ」
ああ、いいですよ。あっしならねぇ、まっとうな商品を、適正価格でお届けし続けますね。なんたって、長く商売続けたいですかね。あったり前のことやってたら、ごひいきにしてくれるお客さんもつくってもんでさあ。まあ三好さんの姑息な商売ほど利幅は大きくないでしょうけどね、積み重ねれば大きくなるでしょうよ。
「あー、そんな話道徳めいた話はうんざりだわ。あんたのいっていることはあれだろ。昔、近江の商人がやってた『三方よし』の商売だ。買い手よし、売り手よし、世間よしってね。でもね、周りのことまで考えてちゃ、満足に儲けられねえんだよ」
ふっ
ざんねんマンがやや小ばかにしたようにため息をついた。三好さん、分かってないなあ。世の中で長く続いている会社を考えてみなすって。どっこもね、お客さんのこと、世間のことを考えてるんですわ。満足してもらうことで、まわりまわって自分とこに利益が転がり込むの。そのことが分かってるから、「三方よし」ってのを続けてるんですよ。
儲け、長生きしている企業は、決して利益度外視の善行をしているわけではない。冷徹な眼で組織の存続を考え、最も利潤が上がる手を繰り出しているのだ。その秘訣といえる「三方よし」を実践する彼らこそ、「究極の自己チュー」なのだ。
「むむ、むおおおん」
三好が、敗北を悟ったかのようにがっくり肩を落とした。俺のやってきたことは中途半端だった。ニヒルを気取り、自分さえ儲かればいいとばかりに姑息な商売をやってきたが、結局は長続きしない心の底で感づいていた。やっぱり長寿企業にはかなわない。
「ありがとう、しがないおっさん。俺、やり方改めるわ」
三好は、晴れ上がった青空のように澄み渡った瞳を見せた。まっとうな商売をやっていく。幸せを周りにもたらした後、まわりまわっておすそわけをいただく。これは理想や願望ではなく、古今東西の先人たちが経験の末につかんだ真実なのだ。この道で、今度こそは堂々と胸を張れる金儲けをしていくぞ。
「大将、熱燗あと3本。隣のおっちゃんにあげといて」
三好がいいとこを見せた。その表情には、先ほどのような勝者のおごりは見えなかった。さあこれからまた忙しくなるぞとばかりに、勘定を済ませるや颯爽と駅前の喧噪に消えていった。
残されたざんねんマン。今回こそはかっこよく人助けに役立てたのではないかしらんーと悦に入りながら、「おいらも三好のおっさんみたいにお金稼ぎがしたいけど、そもそも商売のセンスがないからできないんだよな」と商才の乏しさを嘆くのであった。
完
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