おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【創作】造物、被造物

東の島で生まれ育った男にとって、はるか西の大陸からやってきた女の言うことは理解に苦しんだ。 「造物主は、いらっしゃるんです」 我々の理解を超えた世界にたたずむ何者かが、目に見える限りのあらゆるものを産みだしたのだという。 試みに考えてみよ、例…

【短編】選択

振り返ると挫折ばかりの人生だった。 進学では3つほど選択肢があったが、親のいうがままに補欠合格した進学校を選んだ結果、予想に違わず落ちこぼれとなった。もとより自信のある人間ではなかったが、輪をかけて自己不信、自己否定の塊となり、卒業後は同級…

語学学習と営業メール

語学が好きで、英語と中国語を個人的に勉強している。 学生時代に英検準一級を取得したものの、一級の壁は高く、20年ほど受験を見送っていた。 サラリーマンとなり学習意欲も時間も溶けていく中でなぜか再びやる気を持ちおこし、40手前で英検一級に挑戦…

【小説】無限地下ホテル・3

客室の壁が南国の浜辺を映し出すB1360フロアを後にすると、私は再びエレベーターに乗り込んだ。 下降するほど、奴らと相まみえる可能性が高まる。なにしろ奴らは私とは反対に無限の地下層から上がってきているからだ。 これ以上降りなければ、私は気の済…

【短編】舗装

【短編】舗装 編集 アスファルトの道は、住宅地の中心部を走り、通学する児童から自転車の高校生、勤め人の車などでいつも雑としていた。 日々、朝夕、さまざまな光景が繰り広げられた。不機嫌な表情でハンドルを握る会社員が通り過ぎたかと思えば、ジャンケ…

【ざんねんマンと行く】 口下手な居酒屋大将のささやかなる挑戦

日はとっぷり暮れたが、玄関の暖簾(のれん)が揺れる気配はまだない。駅前の小さな居酒屋。切り盛りする50代の勝(まさる)は、テレビの野球中継を見るともなく眺め、「だめだコリャ」と苦笑いした。会社を早期退職し、夢膨らませて始めた自分の城。若い…

【ざんねんマンと行く】 第44話・純粋無垢な少年少女にこそ見えるものがある

「ともだちが、しにそうなんです」 たどたどしい平仮名に、助けを求める者の切なる気持ちがにじんでいた。 人助けのヒーローこと、ざんねんマンの自宅に届いた一通のハガキ。差出人の住所は鹿児島県指宿市とあった。文字を覚えたばかりの子供だろうか。とに…

【ざんねんマンと行く】 第43話・幽霊界の原点回帰

う~ら~め~し~や~ 草木も眠る丑三つ時(午前2時)。布団をかぶっていびきをかいている耳元で、薄気味悪いかすれ声が響いた。 背筋に嫌な汗がにじむ。人助けのヒーロー・ざんねんマン、実はかなりの怖がりだ。頼む、聞き間違いであってくれーと願いなが…

【ざんねんマンと行く】 第42話・人知れず積む善行

「さーいよいよ長丁場の始まりです!感動の瞬間を、捉えられるか?!」玄関前で、リポーターがやけに高いトーンで叫んだ。各テレビ局が折々に手掛ける、24時間密着シリーズ。病院、ポリス、コンビニ・・と、あらゆる対象をネタにし尽くし、もはや残るトピ…

【ざんねんマンと行く】第41話・矛と盾

この年になって、ささいなことで頭を悩ませるとは。まったく、ただの頭でっかちの、でくの坊か。俺は。 中空を見上げ、自嘲気味に「だめだこりゃ」とつぶやいた。 黒縁眼鏡にスーツをピシりと着こなした姿は、まさに学者然としている。名の知られた大学で論…

【歩き旅と思索】 49・デジャビュ

地点から地点へと歩いてつなぐ旅を20年している。 40代となり、体力は確実に衰え、1日に歩ける距離も短くなってきた。 ただ山あいの集落を歩き、海沿いのひなびた田舎道をたどり、ときおり大都市の雑踏を抜ける。その繰り返しにすぎない。 それなのに、…

【ざんねんマンと行く】 第40話・「黒幕」との対決

ピンポーン アパートのチャイムが鳴った。古い建物だから、誰でも敷地に入ってこれる。面倒だけど、結構面白い出会いもあって、悪くないんだよな。 玄関ののぞき穴の向こうには、ビシッとスーツを決めた中年の男が立っていた。 日陰なのにグラサン。片手には…

【ざんねんマンと行く】 第39話・本当のヒーロー

日差しが強まるほど、木陰の心地よさが増してくる。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。週末の昼下がり、都内のとある大きな緑の公園でプチ森林浴を楽しんでいた。大木のそばに腰を降ろし、ノンアルコールの缶ビールをプシューと空ける。ああ、最高だ。 …

【ざんねんマンと行く】 第38話・ビジネスマンVSサラリーマン

ピンポーン アパートのインターホンが鳴った。さて、お客さんですか。今日も今日とて、どんな用件ですかなあ。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。テレビをポチリと消すと、玄関に向かった。 「は、はじめまして。僕、就活中の大学生です」 リクルートス…

【ざんねんマンと行く】 第37話・暴露系ユーチューバーとの対決

ピンポーン 日曜日の午後。アパートのチャイムが鳴った。 カップラーメンをすする手を止め、インターホンの画像をのぞいた。 びっくりした。 知らないお兄さんが、カメラ回してるよ。 人助けのヒーローことざんねんマン、不気味な訪問者に少し身構えながらも…

【ざんねんマンと行く】 第36話・「ツイてない」男の逆襲

まったく、運に見放された人生だ。 太郎は沈んでいた。先日、外回りの仕事で大通りを歩いていると、空から鳩のフンが降ってきた。スーツの肩にびちゃり。ハンカチで必死にふいたけど、シミがばっちり残っちゃった。おかげで、営業先で変な顔されてしまったよ…

【ざんねんマンと行く】 第35話・AIに勝るもの

江戸は外堀を望む、東京・市ヶ谷。囲碁文化の発信拠点である〇本棋院で、役員たちが苦い顔を突き合わせていた。 ファンの掘り起こしが、進まない。 SNSの時代だ。スマホを見れば動画サイトに目がいってしまう。イケてる少年少女、お兄さんお姉さんたちが、キ…

【ざんねんマンと行く】 第34話・妖怪の世界にもゴタゴタはある

風もないのに、窓がガタガタ揺れている。 深夜、都内のアパート。人助けのヒーローこと「ざんねんマン」の眠りを、やや不気味な音が揺り起こした。布団をまくり、満月の照らす夜空のほうを見やる。と、何やら白い布のようなものが打ち付けている。 ガラガラ …

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(下)~

ざんねんマンも、人事部の小手川も予想しないところで、冴えないはずの体験談が希望の光をもたらしていた。 放心の体で椅子にたたずんでいたのは、企画開発部の管理職、坂本。 アラフィフ。有能な技術者で、社交性もあって順調に職位を上っていたが、会社組…

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(上)~

「実績を積む極意」 垂れ幕にしたためた演題に、経営陣の期待が垣間見えた。 とある食品加工メーカーが開いた、新入社員研修会。大ホールに集結した若手約50人の表情には、一様に期待とほどよい緊張の色がにじんでいた。 「えー本日は、会社組織におきまし…

【ざんねんマンと行く】 ~第39話・口下手な居酒屋大将のささやかなる挑戦(中)~

そうだ、今日はこの大将を助けないといけないんだった。悦楽の世界からふと我に返ったざんねんマン、無言でうつむく大将の頭頂部を眺めながら、策を練った。まず、話をしようにも会話が続かない。どうしたもんか。こうなったら、独り言作戦でいくか。ざんね…

【短編】無限地下ホテル・続

">地の底に向かってどこまでも円柱状の空洞が続き、その側面いっぱいに、客室のドアが段層状に並んでいた。 "> 無限の闇へとつながる不思議なホテルは、私の興味関心をそそるのに十分だった。怖がりな性分にもかかわらず、私はもっと下を目指していった。 闇…

【短編】天国地獄

さあ、くるならこい。閻魔だってサタンだって、誰でも相手にしてやろうじゃねえか。 黄泉の国にやってきたばかりの人間たちがつくる列の中に、一人険しい形相を見せる男がいた。 地球で息をしていたころ。その男は天下を支配し、民から富という富をむしり続…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(下)~

「究極の自己チュー人間」とうたい、自嘲気味に乾いた笑いをあげる三好に、傍らでへべれけ気味のざんねんマンが口を開いた。 三好さん、気取ったこと言ってますけどね、ぜんぜん「究極」じゃないですよ。まだまだ修行が足らんようですなあ。 予想もしない言…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(上)~

軽くなった徳利を、未練がましく振ってみた。ああ、残りちょびっとか。 駅前のにぎやかな居酒屋。寂しい懐事情もあり、カウンターでチビチビやっていると、不意に隣から声を掛けられた。「どうですか、一杯」 徳利を傾けてきたのは、黒縁眼鏡が印象的なスー…

【手記】無限地下ホテル

やけに現実感があった。 私は妙な興奮とともに目を覚まし、まだあの空間に身をおいているかのような気分の高まりとともにあった。 地中に向かってどこまでも続いているのであろう、穴を私は見下ろしていた。 きれいにくり抜いたであろう円柱状の空洞に面して…

【短編】舗装

アスファルトの道は、住宅地の中心部を走り、通学する児童から自転車の高校生、勤め人の車などでいつも雑としていた。 日々、朝夕、さまざまな光景が繰り広げられた。不機嫌な表情でハンドルを握る会社員が通り過ぎたかと思えば、ジャンケンで負けたのであろ…

【短編】気づきと無

修行の世界に身を転じた男がいた。世事に疲れ、人間関係に疲れ、自信を失い、すっかり生きる力を失いかけていた。 呼吸をするのも苦しいほどに追い詰められ、自らを追い詰め、もはや何をしてよいか分からない。その道の先人たちが頼ったとされる書物に目を通…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(下)~

自らのダメ具合をひけらかし、自嘲気味の青年に、ざんねんマンは一瞬たじろいだ。が、返しもなかなかすごかった。 まあその、すごいもんですなあ。そこまでダメなところを見抜けるとは。もうこうなったら、徹底的にダメダメ具合を突き詰めて探してみたらいい…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(上)~

「ああ、僕はだめだ」 哲也(てつや)はため息をついた。頑張って書いた大学のレポートの評価が、合格ギリギリラインの「可」だった。10日間、図書館に通い詰めて仕上げたのに。僕は、本当に才能がないなあ。 まあ、振り返れば「良」も幾つかは取ってきた…