おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

2023-01-01から1年間の記事一覧

【ざんねんマンと行く】 第40話・「黒幕」との対決

ピンポーン アパートのチャイムが鳴った。古い建物だから、誰でも敷地に入ってこれる。面倒だけど、結構面白い出会いもあって、悪くないんだよな。 玄関ののぞき穴の向こうには、ビシッとスーツを決めた中年の男が立っていた。 日陰なのにグラサン。片手には…

【ざんねんマンと行く】 第39話・本当のヒーロー

日差しが強まるほど、木陰の心地よさが増してくる。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。週末の昼下がり、都内のとある大きな緑の公園でプチ森林浴を楽しんでいた。大木のそばに腰を降ろし、ノンアルコールの缶ビールをプシューと空ける。ああ、最高だ。 …

【ざんねんマンと行く】 第38話・ビジネスマンVSサラリーマン

ピンポーン アパートのインターホンが鳴った。さて、お客さんですか。今日も今日とて、どんな用件ですかなあ。 人助けのヒーローこと、ざんねんマン。テレビをポチリと消すと、玄関に向かった。 「は、はじめまして。僕、就活中の大学生です」 リクルートス…

【ざんねんマンと行く】 第37話・暴露系ユーチューバーとの対決

ピンポーン 日曜日の午後。アパートのチャイムが鳴った。 カップラーメンをすする手を止め、インターホンの画像をのぞいた。 びっくりした。 知らないお兄さんが、カメラ回してるよ。 人助けのヒーローことざんねんマン、不気味な訪問者に少し身構えながらも…

【ざんねんマンと行く】 第36話・「ツイてない」男の逆襲

まったく、運に見放された人生だ。 太郎は沈んでいた。先日、外回りの仕事で大通りを歩いていると、空から鳩のフンが降ってきた。スーツの肩にびちゃり。ハンカチで必死にふいたけど、シミがばっちり残っちゃった。おかげで、営業先で変な顔されてしまったよ…

【ざんねんマンと行く】 第35話・AIに勝るもの

江戸は外堀を望む、東京・市ヶ谷。囲碁文化の発信拠点である〇本棋院で、役員たちが苦い顔を突き合わせていた。 ファンの掘り起こしが、進まない。 SNSの時代だ。スマホを見れば動画サイトに目がいってしまう。イケてる少年少女、お兄さんお姉さんたちが、キ…

【ざんねんマンと行く】 第34話・妖怪の世界にもゴタゴタはある

風もないのに、窓がガタガタ揺れている。 深夜、都内のアパート。人助けのヒーローこと「ざんねんマン」の眠りを、やや不気味な音が揺り起こした。布団をまくり、満月の照らす夜空のほうを見やる。と、何やら白い布のようなものが打ち付けている。 ガラガラ …

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(下)~

ざんねんマンも、人事部の小手川も予想しないところで、冴えないはずの体験談が希望の光をもたらしていた。 放心の体で椅子にたたずんでいたのは、企画開発部の管理職、坂本。 アラフィフ。有能な技術者で、社交性もあって順調に職位を上っていたが、会社組…

【ざんねんマンと行く】 ~第33話・人生訓はいつ、誰の胸に響くか分からない(上)~

「実績を積む極意」 垂れ幕にしたためた演題に、経営陣の期待が垣間見えた。 とある食品加工メーカーが開いた、新入社員研修会。大ホールに集結した若手約50人の表情には、一様に期待とほどよい緊張の色がにじんでいた。 「えー本日は、会社組織におきまし…

【ざんねんマンと行く】 ~第39話・口下手な居酒屋大将のささやかなる挑戦(中)~

そうだ、今日はこの大将を助けないといけないんだった。悦楽の世界からふと我に返ったざんねんマン、無言でうつむく大将の頭頂部を眺めながら、策を練った。まず、話をしようにも会話が続かない。どうしたもんか。こうなったら、独り言作戦でいくか。ざんね…

【短編】無限地下ホテル・続

">地の底に向かってどこまでも円柱状の空洞が続き、その側面いっぱいに、客室のドアが段層状に並んでいた。 "> 無限の闇へとつながる不思議なホテルは、私の興味関心をそそるのに十分だった。怖がりな性分にもかかわらず、私はもっと下を目指していった。 闇…

【短編】天国地獄

さあ、くるならこい。閻魔だってサタンだって、誰でも相手にしてやろうじゃねえか。 黄泉の国にやってきたばかりの人間たちがつくる列の中に、一人険しい形相を見せる男がいた。 地球で息をしていたころ。その男は天下を支配し、民から富という富をむしり続…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(下)~

「究極の自己チュー人間」とうたい、自嘲気味に乾いた笑いをあげる三好に、傍らでへべれけ気味のざんねんマンが口を開いた。 三好さん、気取ったこと言ってますけどね、ぜんぜん「究極」じゃないですよ。まだまだ修行が足らんようですなあ。 予想もしない言…

【ざんねんマンと行く】 ~第45話・究極の自己中と「三方よし」(上)~

軽くなった徳利を、未練がましく振ってみた。ああ、残りちょびっとか。 駅前のにぎやかな居酒屋。寂しい懐事情もあり、カウンターでチビチビやっていると、不意に隣から声を掛けられた。「どうですか、一杯」 徳利を傾けてきたのは、黒縁眼鏡が印象的なスー…

【手記】無限地下ホテル

やけに現実感があった。 私は妙な興奮とともに目を覚まし、まだあの空間に身をおいているかのような気分の高まりとともにあった。 地中に向かってどこまでも続いているのであろう、穴を私は見下ろしていた。 きれいにくり抜いたであろう円柱状の空洞に面して…

【短編】舗装

アスファルトの道は、住宅地の中心部を走り、通学する児童から自転車の高校生、勤め人の車などでいつも雑としていた。 日々、朝夕、さまざまな光景が繰り広げられた。不機嫌な表情でハンドルを握る会社員が通り過ぎたかと思えば、ジャンケンで負けたのであろ…

【短編】気づきと無

修行の世界に身を転じた男がいた。世事に疲れ、人間関係に疲れ、自信を失い、すっかり生きる力を失いかけていた。 呼吸をするのも苦しいほどに追い詰められ、自らを追い詰め、もはや何をしてよいか分からない。その道の先人たちが頼ったとされる書物に目を通…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(下)~

自らのダメ具合をひけらかし、自嘲気味の青年に、ざんねんマンは一瞬たじろいだ。が、返しもなかなかすごかった。 まあその、すごいもんですなあ。そこまでダメなところを見抜けるとは。もうこうなったら、徹底的にダメダメ具合を突き詰めて探してみたらいい…

【ざんねんマンと行く】 ~第54話・なんでも悲観的に考えてしまう青年(上)~

「ああ、僕はだめだ」 哲也(てつや)はため息をついた。頑張って書いた大学のレポートの評価が、合格ギリギリラインの「可」だった。10日間、図書館に通い詰めて仕上げたのに。僕は、本当に才能がないなあ。 まあ、振り返れば「良」も幾つかは取ってきた…

【ざんねんマンと行く】 おっさんだって悩みを抱えている

ピンポーン 玄関のモニターをのぞくと、一人のおっさんが立っていた。 都内某所。悩みを抱えたこの男は、どうやって調べたか、人助けのヒーロー「ざんねんマン」の暮らすアパートまでやってきたのであった。 今日も長い一日になるのかな。身震いしながら、ざ…

【妄想SHOW】パワー家族

粒A「もう、耐えられんわ。こんな集団生活。俺は抜ける!」 粒B「それはこっちのセリフだ!A、お前図体でかいくせに結構なスペース陣取りやがって、さっさと出ていきやがれ」 粒C「お前らみんな、出ていってけれ!せいせいするわい」 粒DEFG・・「右に同じ!…

【短編】主人公

煤(すす)の付いた繊維の表面に、ギュイと押し付けられた。 うむをいわさぬ強い力を与えられ、表面の上を前に後ろにとこすれて動いた。 これが世界との、最初の出会いとなった。 真っ白で美しい立方体の形をしていた体躯も、繊維に押し付けられ、こすれこす…

【短編】目覚め

前触れなく、そのときは訪れた。自らを遠巻きに囲む者たちの関心を、肌がヒリヒリするほどに感じた。 黒く、こんもりと盛り上がった自らの肉体に、柵の向こうから多くのジャンパーが白い顔を向けている。ああ、今、「見られて」いる。 これまで、ただ吸い、…

【短編】現実×教育

〇✖県が、学校現場のドラスティックな改革に踏み切った。 その名も「現実教育」。 競争、対立、裏切りー。世の中の醜い実態を、早いうちから子供たちに教え込もうという試みだ。 「次代を担う子供たちに、打たれ強い人間になってもらいたいんです」 報道陣に…

【妄想SHOW】6・AI×哲学

AI開発競争で先頭グループを走る〇✖大学の山田教授は、遂にユニークなソフトを生み出した。 バーチャル有名人出現機。 古今東西の文化人、経済人、アスリート、ロビイスト。名のある人物であれば、ワードを入力するなり3D画像で本人が登場し、生前の本人そ…

【ざんねんマンと行く】第39話・AIに越されそうな男

はぁ~ カウンターの隣から、やたらため息が漏れてくる。なんだようまったく、辛気臭いなあ。 駅前のこじんまりした居酒屋。人助けのヒーローことざんねんマンは、熱燗をチビチビやりながらしっぽり「お一人様」を楽しんでいたが、途中からやってきたサラリ…

【サラリーマン・妄想SHOW】5・就任第一声

え~、このたび首相の重職を拝命いたしました、山田寅太郎でございます。 どうぞよろしくお願いします。 国民生活を守るため、身を賭して尽力する所存でございます。 疫病流布、諸物価高騰、国際争乱。まさに国は未曽有の危機にあります。 皆さまご高覧のと…

【サラリーマン・癒やしの和歌】場面の切り替えの妙

万葉集は5・7・5・7・7の定型スタイルのほかに、5・7を繰り返す長歌というジャンルの作品も多い。 これがまた、リズム感あふれ、そらんじてみると自分自身の気分まで乗ってくる。いわば日本のラップだ。 それに加えて、場面描写の妙が際立っている(…

【サラリーマン・宇宙感動記】地球の常識、宇宙の非常識

地球人の目線から考えるとしごく当然のことが、宇宙全体からみると例外的で珍しいーといったことがある。 日が昇り、沈む。一日が過ぎる。 これ自体、珍しい。 私たちの太陽系に最も近い恒星系として、ケンタウルス座アルファー星が知られている。光の速さで…

【サラリーマン・妄想SHOW】3・こんな「引っ越し」できたらなあ

人類を火星に送る計画が進んでいる。 いつかくる地球の環境危機に備えて、避難先を用意しておこうというわけだ。 だが、これだと移住できる人類が限られるだろう。 イーロン・マスクのおっさんでも頑張ってウン万人だろうか。 そこで、日本のしがないサラリ…