粒B「それはこっちのセリフだ!A、お前図体でかいくせに結構なスペース陣取りやがって、さっさと出ていきやがれ」
粒C「お前らみんな、出ていってけれ!せいせいするわい」
粒DEFG・・「右に同じ!」
記憶の辿れない過去から狭い空間をともにする、粒たちがいる。だが、その関係は決して良好とはいえなかった。気が付けばいがみ合っている。今もまた、新たな小競り合いが勃発しようとしている。
粒の親方「まあまあ、皆の衆。落ち着くのじゃ。わしらはみいんなそろって一家族。分かっておろう?仲良うやっていこう」
慈愛に満ちた語り口が、粒たちの沸き立つこころに涼風をそそぎこむ。粒たちを束ねる謎の存在。反目し合っていた粒たちも、しぶしぶ鞘を納め、お互いに近づき始める。「まったく、優しい親方に頼まれたら、かなわないな」
反発し合う力(小さい力)を、より大きな力(大きい力)でゆるやかに包み込む。これが極小の世界で繰り広げられているリアルのようだ。
粒の親方「皆の衆、もっと視野を広げるのじゃ。見てみよ。わしら一家(玉)のお隣さんも、おんなじようにまとまっとるじゃないか。反目するよりも、手をつなぐのじゃ。それが宇宙の一大真理よ」
玉がゆるやかにくっつきあって、いろんなモノが出来上がっている。塊だったり、液体だったり。中には意志をもって動き出すものまでいる。どれもこれも、小さな小さな粒たちのまとまりからできている。
その中から、永遠に輝き続けるのではないかと思えるほどの光を発する天体まで現れた。天体は周囲の星々をゆるやかにつなぎとめ、一つの家族として無限の宇宙を旅している。
その巨大天体も、気の遠くなるような向こうにたたずんでいる、正体不明の天体によってゆるやかにつなぎとめられている。
粒の親方「のう。分かったろう。宇宙にあるものは、どこまでも引き付けあっておるのじゃ。仲良う、やっていこうじゃないか。それにな・・・」
粒の親方が、意味深に一呼吸おいた。粒たちの好奇心が一気にかきたてられた。
粒の親方「それにな、わしらが所属しとる、あの真っ黒天体の超親方。実は今度、どなたかさんと添い遂げるらしいんじゃ」
真っ黒天体(ブラックホール)を中心にまとまった粒たち(天の川銀河)は、お隣さんのグループ(アンドロメダ銀河)に引き寄せられているらしい。いや、お互いに引き寄せ合っている、というべきか。なんとまあ、おめでたい。いつか二つの銀河は合体して「ミルコメダ(「ミルキー」ウェイとアンドロ「メダ」)という名の一家族になるという。
粒たち「おお、なんと素晴らしい!!やっぱり俺たち、仲良くやっていこう!」
粒の親方「ほっほっほ。そうじゃ皆の衆。それでこそ家族よ」
そう語る粒の親方の口ぶりには、しかし何ともいえない哀愁が漂っている。
それに気づかない粒たちではない。「どうしたんだ親方。まだ何か言い足りないことでも、あるのかい」
親方は、やや間を置くと、意を決したかのように口を開いた。「実はな、この話には続きがあるんじゃ」
引き寄せ合っているのは、アンドロメダなどご近所さんだけ。そこから向こうの世界とは、こうして話をしている間も猛烈なスピードで離れ離れになっているらしい(ダークエナジー)。
粒の親方「まあ、結局世の中、仲たがいが常なんかもねー」
粒たち「オチ、そこかーい!」
モノの世界は、小さくみても大きくみても、結局は反発しあっているのか。なんだかなあ。
粒の親方「じゃがな、まだニヒルに浸るのは早すぎるかもしれんぞ」
粒の親方は、ぐるり辺りを見回した。と、ご近所まるごと、ものすごい速さで動き出した。
・・・
道端の少年が、走り出した。手押し車のお年寄りが転んでいた。「おばあちゃん、大丈夫ですか」
手を握り、立ち上がるのを支えた。買い物袋から落ちたリンゴを拾い上げ、袋に戻した。
お年より「あいたた・・ありがとうねえ。年でねえ。助かったよ」
少年はしばらくお年寄りと並んで歩いた。無事を確かめると、「じゃ、僕いくね」と立ち去った。
遠くなる背中に、お年よりは「うれしいねえ」と目を細めた。
駆ける少年の瞳の中に、粒の一家がいた。
親方が、つぶやいた。
「わしらが宿っとる、この生き物次第。ということなんじゃろうなあ」