~簡単な自己紹介はこちらです~
歩いて土地をつなぐ旅では、なるべくテント泊をするようにしている。
できる限り自然を味わっていたい、空間のつながりを実感したいというのが旅の大きな目的の一つであり、それには野営が一番となる。
ただ、市街地に入るとテントは張れない。おまわりさんの御厄介となるからだ。そこで、次善の策として別の寝ぐらを探すことになる。
今までの旅で、まず探してきたのはこれだ。
カプセルホテル
これはどうも歩き旅と相性が合う。ザックをかついでトボトボ歩くだけの旅に、大きな宿泊ルームはいらない。むしろ最小限のスペースを確保し、しっかり体を横たえて疲れをとることさえできれば充分だ。
ということで、大都市には必ずあるカプセルホテルにはよくお世話になっている。
カプセルホテルには大きな魅力がある。大型の浴場がだいたい併設されているのだ。凝り固まった足腰の筋肉をほぐし、湯船に身体を浮かべて「大」の字になる。ああ、最高だ。
これだけでも充分ありがたいのだが、カプホの中には宿泊客専用の居酒屋スペースを設けているところもある。これがまた、たまらん。
疲労がたまり、もう外出はしたくないと思ったときには、そこがオアシスになる。
中ジョッキからはじまり、つまみ、刺身、焼き鳥なんかをいただく。テレビの野球中継なんかをぼおっと眺めながら、頭空っぽの状態で心身を癒す。
鹿児島県は中心部で一泊することになったとき、私は迷わず駅前のカプホを選んだ。お、居酒屋コーナーまであるじゃないか。ありがたい。大浴場で体をほぐした後、カウンターでグビりと飲み始めた。
意識してはいなかったが、気づくと両隣に中年の男性が座っていた。片方の人はサラリーマン風。もう一人はガタイがよくて、トラックの運ちゃんかな。
誰が、ということもなく、いつしかビール片手に語らいだした。
お互いの仕事のことを少し。あとは、自分の人生のこと。愉しんでいること。私は今自分がしている歩き旅のことを話した。私より一回り以上年上のお二人は、興味深く私の話を聞いてくれた。
カプホらしく、空間が煌々と照らされた超健康的な雰囲気の中で、まるで修学旅行中に夜更かしをする小学生のような気持ちで楽しく飲み語らった。
ふと時計を見ると、もう深夜2時ごろになっていたと記憶する。
「ああ、楽しかった、兄ちゃん、旅、がんばってな」
ガタイのいい兄ちゃんがエールを贈ってくれた。言葉の温もりが、今も忘れられない。
自然とつながったままのテント泊には野営ならではの醍醐味があるが、カプホ泊もたまには悪くない。その中で、心温めてくれる意外な出逢いにまみえることもある。
自然を軸にしながらも、こうした文明の粋をたまには頼っていくつもりだ。
~お読みくださり、ありがとうございました~