おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【歩き旅と思索】 27・お巡りさんとの出会い

テクテク歩くだけの旅をしていると、いろんな出会いがある。

 

お巡りさんもそうだ。誤解しないでいただきたいが、お縄を頂戴したわけではない。

 

学生のころは、道端で見つけた野っ原にえいとテントを張り、一晩をすごすことが多かった。こんな行き当たりばったりの旅がカッコいいんだ、そんなふうに粋がっていた。

 

佐賀県の山中でテントを張っていると、深夜にテントがライトで照らされた。

 

「すいません」

 

声を掛けてきたのは地元のお巡りさんだった。変なところに変なテントがあるものだから、地元のどなたかが不安になって通報したのだろう。

 

私は慌てることなく、記録している旅日記と学生証を見せ、これこれこういった目的で今晩はテントを張った、明日はどこどこへ向かうーと説明した。

 

お巡りさんは、不審者でないことを確認すると、あっさり了解してくれた。「それでは明朝はなるべく早めに出発してくださいね」と促された。そりゃそうだ。地元に不安は抱かせたくないですものね。真冬でシュラフがほとんど機能していなかったこともあり、真っ暗な朝5時にはテントを畳んで次の地方都市へと向かった。

 

社会人となった今ではゲリラ的にテントを張ることはなくなっているが、当時何度か遭遇したお巡りさんとの出会いも、なかなかない大切な思い出になっている。

 

静岡県焼津市に向けて歩いていた時(たしか国道1号線)、1本のトンネルに差し掛かった。大型ダンプなどがガンガン行き交い、見るからに危なかった。一応歩行者用の狭い区画はあった。さて、どうするか。ここを抜けないと、大回りしないといけなくなりそうだ。トンネルの入り口に、交通整理のためか、一人のお巡りさんが立っていた。私はお巡りさんに尋ねた(というか、お願いした)。

 

私は歩き旅をしていて、どうしてもこのトンネルを通り抜けたいです。なるべく壁側に身を寄せますので、ここを歩いてもよいでしょうか。

 

お巡りさんは、私の身を案じてくれるかのように少し思案し、「このトンネルはかなり長いので注意してくださいね。どうぞ」と通してくれた。

 

当時はまだダンプが排ガスをガンガン出していたころ(約20年前)。息をするのも大変で、むしろなるべく深呼吸しないようにして早足で歩いた。結構きつかった。3キロ程度はあったか。ようやく抜けたところで、並走する新幹線の走行音が聞こえた。おお、ここが焼津か。

 

とまれ、最短距離で次の町にたどり着くことができた。あのときのお巡りさんの気遣いとその表情が忘れられない。

 

おかたい仕事の方の、人間らしい表情や温かさを感じさせる言葉遣いに触れると、なんとも心が癒される。お巡りさんはその代表ともいえそうだ。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~