おじさん少年の記

いつまでも少年ではない。老いもしない。

【大将と私】14・奇人変人のこだわり

変わり者の大将の紹介↓

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日々、儲けてるのか損してるのか分からないようなギリギリ経営を続けていたのが、男やもめの大将だった。

 

料理を楽しみ、客とのやりとりを楽しみ、店を閉めた後は自分が客になってなじみの店になだれ込む。自由奔放、気ままを地でいく人間は、世の中広しといえどそんなにはいないのではないかと思う。

 

こだわりも多かった。以前、何かの縁で大将が私の自宅に泊まりにくることになった。大将、狭いけど一部屋だったら空いているから、そこで泊まってください。

 

親切な申し出を、そのまま受け止める大将ではなかった。

 

大将はその日、山登りで使っている1人用の小型テントを持ってきた。そして、猫の額ほどの広さしかない私の家の庭で、えっこらしょとテントを張ったのである。

 

これには困った。ご近所の目もある。なんといっても平日だ。通学で行き来するご近所のちびっ子ったちの反応も気になる。まあ塀があるから丸見えというわけではないのだが、ちょい見えはする。

 

このまま大将を一人でテント泊させるのは心配だ。ということで、狭い庭に私も1人用テントを張ることにした。

 

大の大人が、平日の夜に、2人してテントを張る。なんと不自然な光景ではないか。

 

どうも大将は、人の家に泊まるということが苦手のようだった。気を使ってしまうからだろうか。とにかく、庭でテント泊を強行したのは大将が初めてだった。これからもそんな御仁が現れることはないのではと思う。

 

私は大将に頼んだ。大将、もう庭キャンは構いませんから、せめてトイレだけはうちのを使ってくださいよ。庭でシャーだけは勘弁してくださいよ。それこそご近所の目が気になりますから。

 

大将は、どうしたのだろうか。夜、テントを出る音はしなかった。

 

朝、2人してテントを撤収し、私は出社。大将は知り合いの呑ん兵衛(おそらく)に会いにいった。

 

私にはチビがいるが、その日、大将のとっていたある行動を目撃していた。

 

その日の朝、私が部屋に戻って出社の支度をしていたころ、大将はやはり屋外でこっそりシャーをやらかしていたらしい。

 

面白いのはそこからだった。大将はおもむろにチャックを締めると、まだ上がりきらないお天道様に向かって合掌したというのだ。

 

風来坊で、何かを敬うといったしぐさは人前で一度も見せたことのない大将だったが、実は自然を敬愛していたようだ。

 

偏屈者で、変なこだわりがあるけれど、どこまでも純粋で少年のような一面があった。そこに、少なくない人が惹きつけられた。大将は、一つの強力な磁場であった。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~