おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【大将と私】11・腕は一級

変わり者の大将の紹介↓

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お世辞にも「きれい」とはいえず、女性客や紳士には縁がほとんどない居酒屋だったが、一人切り盛りする大将の腕だけはホンモノだった。変わり者の大将のキャラクターだけでなく、その料理もファンを引き付ける力になっていた。

 

日ごろから、イカゲソ鉄板(400円くらい)、アスパラ炒め(同)、牛タタ(600円くらい)、メニュー外の皿うどんなど多彩な料理を繰り出していた。私はよく油物を注文していたが、揚げ具合、味付けが抜群で、もうよだれが垂れて垂れて仕方なかった。

 

大将の真骨頂ともいうべき料理が、魚だった。特に大人数用。

 

年末は常連客で何度も忘年会をした。そこで例えば「大将、10人!一人4500円飲み放題で!」などと事前に頼んでおくと、当日すんごいのが登場したものだ。

 

白身、赤身、貝物。あらゆる幸が品よく、つつましく並んだ立派な船盛だ。

 

これがなんとも見栄えよく、眺めているだけでもううっとりとしてしまいそうな、すぐに箸を伸ばしたくなるような、美しい盛り付けだった。

 

味、食感とも、申し分なし。年を忘れるにもってこいの品だった。「舌鼓を打つ」とはこういうことをいうのだろう。大将の常連客で、代々醤油店を営んでいる方がおり、その方の醤油でいただくとなおのこと美味しいのだった。

 

あれだけの質、見栄え、ボリュームで、飲み放題込みで4500円。地方都市とはいえ、信じられん。安すぎる!

 

大将の店に一つだけある半個室の小あがりで、7~8人でギュウギュウ詰めになりながら飲み、味わい、語り合った。

 

どれほど美しい料理だったかを示すために、写真も載せようと思い、過去自分で投稿したSNSを辿ってみた。

 

悲しいことに、船盛りの写真を一枚も撮っていなかった。

 

アホや、俺。なんで一回くらい写メしとらんかったんか!

 

今にしてはもう、仕方ない。おそらく、写メを取ることを忘れるほど船体に目がいってしまっていたのだと思う。

 

大将の船盛りはもう味わえないが、舌と目はしっかりと覚えている。それを書き残すことで、空想の世界でだけでも蘇らせたい。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~