変わり者の大将の紹介↓
男やもめで、女性にはすっかり人気のない居酒屋の大将は、だが変わりもの好きな一部ファンらによって日々をしのいでいた。
そんな店だから、集う客同士のつながりも自然、太くなった。
私が大将の店に足しげく通いだして2週間ほどのころだったか、カウンターで熱燗を傾ける中年男性2人組がいらっしゃった。
話しぶりから、地元の方のようだった。現地の支店に配属されて間もなかった私は、空いていた隣の席にたたずみ、特に意識するわけでもなく2人の会話を聞こえるままに耳で受け止めていた。
会話の中に、私の知っている地元の出来事があった。
「あ、それ、ありましたね」
思わず話しかけると、2人はやや驚いた様子で私のほうに顔を向けた。戸惑いは、それほど間を置くことなく強い興味の色に変わった。
そこからはもう、早かった。ビールという潤滑油の力を借りながら、お互いに最近の面白かった話をしたり、仕事の話をしたりした。気づくとその日の間に深い友人関係のような心のつながりができていた。
それから、2人とは今に至るまで親交(心交)が続いている。私より20も上だが、心がつながっているから年の差を感じない。もう15年になる。
2人とは節目節目で同じときと場所を過ごした。大将の居酒屋で、年越し鍋。休日の大将を含めて、川原でバーベキュー。大将が急病で倒れたその日も、一緒に駆けつけた。大将が逝った日も、もちろんそうだ。大将を偲んで、それからは折々に再会しては杯を傾けている。
大将を通じて、大将のおかげで、年の差を超えた心の友と巡り合うことができた。
2人は、私が大将のことを心から好いていることを知っている。だから、一緒に飲むときは「◎◎君(私のこと)、あのときは大将があんな馬鹿なことしたよなあ」と、私も居合わせた面白おかしい出来事を振り返ってくれる。
2人と飲むときは、大将もそばでエアー酒を飲んでいるように感じる。
大将にはもう会えないが、大将を通じて出会えた素晴らしい人たちとは、もうそれこそこの世を去るまでお付き合いを続けるだろう。
出会いが呼んだ出会いに、心から感謝している。
~お読みくださり、ありがとうございました~