おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ざんねんマンと行く】 ~第32話・おっぴろげマンとの激闘(中)~

(上)はこちらになります(3分で読めます)~

 

人の心の声を読み抜き、言葉にしてしまう迷惑怪人・おっぴろげマン。総理官邸まで荒らしにきた迷惑男を退治せんべく、人助けのヒーローこと「ざんねんマン」が立ち向かった。

 

・・・

 

とはいっても、必殺技があるわけじゃない。なんといっても、この迷惑怪人に小細工は通用しない。考えてることが全部伝わってしまうからだ。しかも言葉にされちゃったら、恥ずかしいよ。

 数秒おいて、律儀にもおっぴろげマンがざんねんマンの心の声をリピートしてくれた。

 

「・・・しかも言葉にされちゃったら、恥ずかしいよ」。

 

まったく、面倒なのを相手にしたもんだ。



おっぴろげマンは楽しくて仕方がないかのように、今度は傍らの首相補佐官・矢部のもとに寄った。

「ったく、全然頼りにならないじゃないか、このざんねんマンとかいうおっさん!こんなことなら高いお金出してアメリカのスーパーヒーロー・バッ〇マンでも頼んでおくべきだったか。あー今日も残業で遅くなりそうだ」

 

矢部の心のボヤキを、実に情感豊かに語り上げてくれるのであった。



 愚痴が愚痴を生む様子が実によくわかる。それにしても、何も隠せない。味方同士の間に、亀裂がピキピキと入るのはこうもたやすいものか。



人の世は濃淡こそあれ、どこもこのようなものなのかもしれない。うわべは世辞で取り繕い、ときとして肚の底で悪態をつきがちだ。心の底に抱えたねたみ、そねみ、怒り、嫉妬、そのような負の感情に、ときとして身をゆだねてしまいたくなる。

 

だが、そうした醜いこころが積み重なると、言葉として形をまとい、やがて根を張り始める。そうなったらもう、おっぴろげマンのやりたい放題だ。



 負の感情が沸いてきた瞬間が、勝負だ。



ざんねんマンは矢部にお願いした。矢部さん、僕のことは味噌っかすのように言ってくれて、考えてくれて大丈夫です。その代わりに、僕のことを「頼りない」「ふがいない」「ださい」と思った瞬間に、「・・と今俺は思った」と一息入れてみてください。



感情は重いものほど引力が強いのか、芋づる式に新たな負の感情を呼び起こしがちだ。負の連鎖にくさびを打ち込むことが大切だ。感情という川の流れからいったん自らのからだを引き上げるのだ。



矢部は自信なげに応えた。「わ、分かったよ・・。どうせ俺の気持ちなんかマントのおっさんに全部中継されちゃうんだから、隠さないよ。それにしても、ほんとうにあんたは信頼できるんだろうか、頼りない・・」



不安、愚痴が心の中でも言葉の上でも連鎖しかけた、その瞬間だった。矢部は思い直したように息を止めた。「・・と、俺は今思った



 感情の激流に飲み込まれかけた自身の姿を、客観的にとらえ直せた。わずか一瞬ではあったが、目が覚めた。


その後も、何度も流れに飲み込まれた。だが、その都度間をおいて身を引き上げ、悪感情が負の連鎖を生み出すのを食い止めた。



 やがて、おっぴろげマンのコメントが少なくなっていった。



「ざんねんマンは、頼りない・・」

「と俺は今、考えた・・」

「やっぱり信用できないかもしれない、不安だな・・」

「と俺は今、考えた」



おっぴろげマンの声色から、先ほどの元気さが失われていた。どうも、つまらなさそうだ。



愚痴や悪態が沸き上がること自体は食い止めづらくても、その後の暴発を抑えることは不可能ではない。感情をじっくり見つめる手法は、伝統仏教の世界で「観察」「ヴィパッサナー」と呼ばれる。地味だが人の意識を悪感情の泥沼から引きずり上げてくれるシンプルな行為は、おっぴろげマンという希代のダークヒーローから活躍の場を奪うことにつながった。



すっかりやる気をなくした様子のおっぴろげマンをほったらかし、矢部は報道陣をすぐさま集めた。対処方法を伝えるためだ。

 

ここから、「おっぴろげマン・駆除作戦」に移行する!



~(下)に続く~

週末出動!