変わり者の大将の紹介↓
商売をするというより、居酒屋という舞台を気ままに生かして人生を楽しんでいるような人が大将だった。
儲けより、「楽しい」「面白い」を優先する。だから、店の狭い空間の中でもいろんな濃い体験をした。
たびたびあったのが、客から店員への変身だ。日ごろからお客さんが少ないこともあり、ほぼいつも大将一人で切り盛りしていた。だが、たまにだが客であふれることがあった。
そんなときは、常連客の誰かの出番になった。
何かしてくれと大将が頼んでくるわけではないが、このままでは店が回らない。見てられない。「大将、あちらのお客さんがレモンチューハイですって」などと取りつなぎをするようになる。まったく、落ち着いて酒が飲めないよ。
いつの間にか本格的にフロア仕事(もどき)をするようになる。お客さんからは「えっとね~」と完全に店員と勘違いされる。ガンガン注文を出される。お客さんの、私に対する扱いもだんだん雑になってくる。わたしゃ、ただの客ですよーと言い出したいが、そのタイミングも見いだせず、ひたすら店内を動き回る。
はがゆいことに、大将は面白がっている。やがてビールサーバーの使い方を教えだす。「おお、うまくなったじゃねーか」とはやしたててくる。いやいや大将、僕客ですから。僕が自分で注文した料理、まだテーブルに残ってますから。食べたいですから。
そんなのは大将の無言の笑みで流される。ああ、もうこうなったら店員でやってったるわ。バシバシ注文とったるわい。
いろいろやっていると日付変更線を迎える。そろそろ店じまいだ。あー、疲れた。
ここからが第二ステージだ。
大将が「おお、出るぞ」とくる。テーブルの皿の片づけをせかされる。大将はパパっと洗い終え、店の電気を消して二人で遅い夜の街に繰り出す。
ここからは全部、大将のおごり。なんでも食え、飲め。そうはっきりとは言わないが、そぶりでそう伝えてくる。。私もそこそこ、甘える。
大将、今日もうかった分、僕へのおごりで溶けてるんじゃないですか。
これだったら、ふつうにバイト雇ったほうが安くすんだんじゃないやろうか。
いろいろ考える。が、大将はどこふく風。今日が、今が楽しめればどうでもいいとばかりの表情だ。
こんなシーンが何度もあった。そのたびに疲れ、笑った。
変わった大将やった。おもしりかった。
もうこんな人には会えんのやろうか。
少し寂しいが、これが『一生の宝』というものなのかとも思う。
思い出があるだけでも、ありがたいってなもんか。
~お読みくださり、ありがとうございました~