西暦30××年。
人類は遂に地球外知的生命体(ET)との交流に成功した。
光の速さで×××年離れた先の恒星系で暮らすその生命体は、同じく高度な文明を擁し、お互いのワープ技術を生かした親睦が始まった。
お互い親愛の表情を浮かべる一方で、言いようのないライバル心が沸き起こるのを抑えられないのも事実であった。
こっちのほうが、すごいんだい!
技術だって、世の中の仕組みだって、アートだって、こっちのほうが優れているんだ。そっちには、負けないぞう。
技術がどれほど進んでいようとも、どのような恒星系に暮らしていようとも、知的生命体の考えること感じることは似通っているようだ。結局は「自分こそ一番」だと胸を張りたいのが性(さが)であった。
技術の見せっこがひと段落した後、比べっこのステージは「至高の存在」へと移った。
地球からは、各種教会・お寺から長老数人が選ばれ、交流の舞台となった月の特設会場に向かった。あちらの星からも、厳選された何人かがやってきた。
お互いに、さりげなく、自分とこのすごさをアピールした。
(地球の長老)「ああ、天は何と素晴らしい出会いをもたらしてくだったのでしょうか。親愛と友情は宇宙不変の真理。我らが『ゴッド』の下、末永くお付き合いをしましょう」
(あちらの長老)「そうですかそうですか。私どもが尊崇する、唯一無二の造物主であらせられる『ナモーン』様におかれましても、さぞお喜びのことと存じますぞ」
(地球の長老)(ふっ、『ナモーン』とはダサい名前の神様だこと)
(あちらの長老)(『ゴッド』とはこれまた、固い響きじゃな。融通きかなさそう)
お互いが相手をディスりあった。そして、自分とこの神さまをゴリ押しした。
お互いが教典自慢を始めたころ、事態は思わぬ方向へ展開した。
(地球の長老)「我らが全宇宙の絶対神は、わずか6日で宇宙のあらゆるものをお創りになりました。まこと全知全能とは、このような存在をいうのですなあ」
(あちらの長老)「・・・ちょっと何言っているか分からない」
(地球の長老)「な、なんと申しまするか!我らが『ゴッド』に失礼な!」
(あちらの長老)「『6日』とはどういう意味ですか」
(地球の長老)「6日とは、6日ですよ!日が昇って、沈んで、それが6回!」
(あちらの長老)「何をわけのわからないことを」
話がかみ合わないのも無理はなかった。あちらの惑星では、主星の重力が強すぎるため、常に同じ地表面を主星に向けていた。ちょうど私たちのお月さまがいつも「うさぎさん」を見せているように。従って、「日の出」も「日の入り」も、「1日」もなかったのである。
(あちらの長老)「おたくの星の『ゴッド』さまとやらは、どうやらソワソワと落ち着きのないお方のようですなあ」
(地球の長老)「ぐぬぬ・・・」
教典のしょっぱなからダメ出しされ、地球の長老は涙目になった。このまま、地球チームは押し負けてしまうのか。
(あちらの長老)「まあ、我らが『ナモーン』様の御言葉を聴きなされ。『我を信じ、つき従え。我は漆黒の世界をも統べる者なり』と」
あちらの星の住民にとって、闇夜の世界は恐ろしい空間であった。というのも、彼らは常にお日様に照らされたゾーンで暮らしていたからである。日差しの当たらない世界(惑星の反対側)は音もなく、冷たい未知のゾーンであった。ああ、恐い。暗闇の世界を知る神さまって、すごい。
(地球の長老)「なんとまあ、『ナモーン』様とやらも、大げさなことを言う方ですなあ」
(あちらの長老)「な、なんと申されるか!」
地球の長老にとっては、なんとも間の抜けた話であった。「我々は毎晩、夜空を見上げておりますが」
日が昇って、沈む。沈めば闇が広がる。怖いどころか、星々のきらめきはロマンにあふれている。
(あちらの長老)「な、ナモーン様の出る幕がない・・」
一連のやりとりを、電磁波による中継で見ていた両方の星の住民たちは、ぼやいた。「どっちもどっちやん」
地球の長老が、つぶやいた。「もう、この手の話はよしましょうか」。あちらの長老も答えた。「そだね」
地球の中でも、どこかの星でも、こうした「至高の存在」を巡ったいさかいが起きている。だが、「これこそ絶対」「これこそ真実」といえるものはあるのだろうか。相手に押し付けようとしたとき、どこかで無理が出やしないか。
疲労感だけをもたらした中継が終わり、地球人の中年おやじがつぶやいた。
「難しい話はもういいわ。週末だ週末。飲もう!」
二つの星で、やけにお酒が売れたのであった。
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