変わり者の大将の紹介↓
変わり者で、愛嬌があって、一緒にいるとどこまでも楽しくなる、居酒屋の大将がいた。
思い出は無限といっていいほどある。一つまた、挙げてみたい。
店になじんできたころのことだ。私は空いていた小上がりであぐらを組み、馴れ馴れしい雰囲気で「大将、小皿~!」と呼びかけた。
大将は「おお」といつものように小声でつぶやき、棚から1枚取り出した。
「ほれ、いくぞ」
冗談めかして、手裏剣のように投げようと構えるしぐさをした。またまた大将、びびらせないでくださいよ。
「本当にいくぞ」
嘘やろう。やるはずがない。僕がつかみ損ねたら、壁に当たって小上がりが悲惨な状況になる。さすがにそれはせんやろう。大将のいるところから小上がりまで、3メートル近くはあった。
投げた。やりおった。
無意識で、つかんだ。つかめた。俺、つかめた!
なんとも言葉で表現できない、驚きと感動、愉快な気持ちでいっぱいになった。
大将、アホや。そして、見事つかんだ俺、すげえ。
わずか1分足らずの展開が、栄養満点の「つまみ」となり、楽しくて酒が進んだ進んだ。
こんな、一見たいしたことのない体験が、私のしがない人生の中で独特な光を放ち続けている。記憶をたどるたびに楽しくなり、胸が満たされる。
大将はおそらく、今も黄泉の国で開いた新店でお客に小皿を投げつけていることだろう。
ああ、あっちでもお客は少ないんやろうなあ。
~お読みくださり、ありがとうございました~