おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【歩き旅と思索】 22・シート1枚の安心感

~簡単な自己紹介はこちらになります~

ojisanboy.hatenablog.com

 
歩き旅では、毎回テントを持参している。なるべく野宿をし、自然を満喫するようにしている。
 
1人用のテントは小さいが、シート1枚に包まれているだけで実に大きな安心感を得ることができる。まるで自分の部屋ができたような感覚になる。くつろげる。
 
歩き旅を始めて間もない学生のころは、行き当たりばったりで野っ原にテントを張るなど大分危ないこともしていた。夜間、人通りが途絶えるような山間地では、とりわけシートのありがたみを感じたものだ。
 
この小さいながらもくつろげる空間のおかげで、平静心を保つことができた。
 
その恩恵を感じたことがある。
 
広島県を旅していたときのことだ。今では許されないが、その晩、小学校のグラウンドにテントを張った(もう20年以上前のことなので世間様、ご容赦を)。ほかに野宿できそうな場所が見つからなかったからだ。公共空間でもあり、安心感があった。
 
ところが明け方、フンフンと激しい息遣いをする動物の気配で目が覚めた。その鼻息はどんどん近くなり、とうとう私のテントの真ん前で止まった。
 
フンフンが、ウゥーと低い唸り声に変わった。明らかに、シート越しに何者かの気配を感じているようだった。
 
シートがなければ私は即倒するか全速力で逃げていただろう。が、この薄皮1枚の安心感のおかげで、私は落ち着いて異なる対応に出ることができた。
 
気配を消した。
 
物音ひとつ立てず、息もなるべくゆっくりし、全身を硬直させた。不思議と恐怖はなかった。
 
距離にして1メートルもないところにいる生き物は、私という“不審者”の存在をなかなか確信できないようだった。唸り声は引き続きあげながらも、警戒心も薄れたか、すこしずつ離れていった。やがて近くの山のほうへと去った。
 
あれは野犬だったのか、イノシシだったのか。今となっては分からないが、イノシシだったら危なかった。
 
テントは学生時代から同じものを使い続けている。もう20年を超えた。3万円かけて100泊以上はしたので、すっかり元は取れている。一緒にたくさんの楽しく危ない経験をしてきた。
 
もうボロがきていて、長くは使えないが、こいつの与えてくれる安心感のおかげで旅を続けられているのだと感じている。
 
~お読みくださり、ありがとうございました~