人助けのヒーローこと「ざんねんマン」も、お呼びが掛からなければすることがない。寂しいようだが、それだけ世間が平和ということで、ありがたくもある。
週末の午後。つかの間の平穏をかみしめんと、ざんねんマンは一人、気楽な電車旅に出た。
ガラガラの車内で、長椅子を独り占め。平日なら通勤客でギュウギュウになっているはずだ。大股開きになってぜいたくを満喫していると、小さな駅で家族連れが入ってきた。
おじいちゃんからちびっ子まで、10人近くはいるかな。リュックをしょってて、どうも家族連れみたい。言葉から察するに、外国の方のようだ。
ざんねんマンの座る長椅子に、次々と腰かけてきた。残るはお父さんとおぼしき男性一人。ただ、椅子はもういっぱいだ。
僕がどいたら、みんな一列に座れるなあ。
シャイなざんねんマン、「席を譲る」というポーズをとることができず、代わりに用事があるふりをして電車を降りた。
家族連れのいる車両から離れると、再び乗り込んだ。「向かいの席も空いてたけど、みんな一緒のほうが安心するよなぁ」。
その数分後。次のやや大きな停車駅で、えらい多くの乗客が乗り込んできた。どうも大型イベントがあったらしい。家族連れの車両も、あれよという間に若者でギシギシだ。
言葉も分からぬ異国の地。つかの間でも離れ離れになっていたら、さぞ心細くなっていたことだろう。満員電車ならではのムンムンした雰囲気に圧倒されながら、家族はホッとしたように笑みを見せ合った。
小さな親切は、予想もしないところで、誰かにささやかでも幸運をもたらしているのかもしれない。
電気店のひしめく大型駅で、ざんねんマンは降りた。「あー最近、お助け仕事ができてないなあ。なんだか後ろめたい気もするけど、今日はやりっとアニメグッズ収集を楽しもう」。
大きく伸びをすると、ネオンきらめく電気街へと繰り出した。
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