おじさん少年の記

いつまでも少年ではない。老いもしない。

【ざんねんマンと行く】 ~第17話・なんという暮らしの中にもしあわせの種はある~

人助けのヒーローこと「ざんねんマン」も、お呼びが掛からなければすることがない。寂しいようだが、それだけ世間が平和ということで、ありがたくもある。

 

週末の午後。つかの間の平穏をかみしめんと、ざんねんマンは一人、気楽な電車旅に出た。

 

ガラガラの車内で、長椅子を独り占め。平日なら通勤客でギュウギュウになっているはずだ。大股開きになってぜいたくを満喫していると、小さな駅で家族連れが入ってきた。

 

おじいちゃんからちびっ子まで、10人近くはいるかな。リュックをしょってて、どうも家族連れみたい。言葉から察するに、外国の方のようだ。

 

ざんねんマンの座る長椅子に、次々と腰かけてきた。残るはお父さんとおぼしき男性一人。ただ、椅子はもういっぱいだ。

 

僕がどいたら、みんな一列に座れるなあ。

 

シャイなざんねんマン、「席を譲る」というポーズをとることができず、代わりに用事があるふりをして電車を降りた。 

 

家族連れのいる車両から離れると、再び乗り込んだ。「向かいの席も空いてたけど、みんな一緒のほうが安心するよなぁ」。

 

その数分後。次のやや大きな停車駅で、えらい多くの乗客が乗り込んできた。どうも大型イベントがあったらしい。家族連れの車両も、あれよという間に若者でギシギシだ。

 

言葉も分からぬ異国の地。つかの間でも離れ離れになっていたら、さぞ心細くなっていたことだろう。満員電車ならではのムンムンした雰囲気に圧倒されながら、家族はホッとしたように笑みを見せ合った。

 

小さな親切は、予想もしないところで、誰かにささやかでも幸運をもたらしているのかもしれない。

 

電気店のひしめく大型駅で、ざんねんマンは降りた。「あー最近、お助け仕事ができてないなあ。なんだか後ろめたい気もするけど、今日はやりっとアニメグッズ収集を楽しもう」。

 

大きく伸びをすると、ネオンきらめく電気街へと繰り出した。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~