おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ざんねんマンと行く】 ~第15話・オリンピックをみんなで楽しく~

世紀の舞台に漂う「ギスギス」感を、みんな一緒の「ワクワク」感に変えられないか―。

 

古代ギリシャで生まれたスポーツの祭典が、現代社会で蘇ってからはや1世紀。人間の鍛え上げた身体能力や表現力をたたえ合う舞台は、やがて出場国同士が力を見せつけ合う競争の場に姿を変えようとしていた。

 

「これでは、いけない」

 

東アジアの2大都市での大会を無事に終えた203×年。各国の心あるリーダーたちが集った。思いは一つ。五輪の原点に立ち返ることだ。

 

金メダルの数とか、どの国がすごいとか、ひとまず置いとこう。せっかく地球のあちこちから当世一級のアスリートたちが集うんだ。何かこう、観る人みんなで楽しく、盛り上がるフェスティバルにできないものか。

 

議論が煮詰まる中、切り札として一人の男が招かれた。人助けの職人こと「ざんねんマン」。東洋の島国で誕生した隠れヒーローだ。毎回、たいした仕事はしてないように見えるが、結果的にミッションをこなしている。

 

「うーん、これはなんとも・・」

 

ニューヨークの会議場でマイクを握る。が、言葉が続かない。大型の円卓に並んだ各国の重鎮たちが、険しい表情を浮かべる。「アナタハ、オリンピックヲ、ミテマスカ」

 

ああ、大会ですか?もちろん観てますよ。やっぱり100㍍走は盛り上がりますよね。こないだはアジア人で初めて9秒9の壁を破る人が生まれたんですよね。一昔前は9秒86のカール・ルイスがヒーローだったんですけどね。千両役者がどんどん変わっていくのは面白いですよ。

 

・・雑談をするためにこの男を呼んだわけではない。だが、気が紛れるので重鎮たちはもうちょっと話を聞くことにした。

 

役者といえば、大会大会で、それぞれの競技で、見せ場をつくる人がいましたねえ。棒高跳び鳥人ブブカなんかも忘れられません。私はヒーロー業界の人間ですが、毎回その時代の「ウルトラマンファミリー」を観ているようで、新鮮ですよ。

 

重鎮の一人の瞳が光った。

 

「ファ、ファミリーとな」

 

身体能力の極限を目指す者同士。たしかに、同時代を生きる仲間だといえる。

 

まあいうたらですね、1986年が「ウルトラQ」、2000年が「ウルトラマン・コスモス」、2020年が「ウルトラマン・Z」みたいなもんですよ。みんな見どころありましたよ。どれが一番面白かったか、ですか?そうですね、比べたら「Q」ですかね。

 

円卓のあちこちから声が挙がった。「 GOT IT!!!」

 

今まで、国別でみていたからすきま風も吹いてたのだ。そうではなく、一つの大会の出場者みんなをメンバーとみるのだ。去年東京であった大会は「2020・夏組」。来月から始まるのは「2022・冬組」だ。どの時代の組が一番優れていたのか、比べてみたら面白いかもしれないぞ。

 

「1986・夏組」にはルイスがいた。だが、霊長類最強のレスリング女王はいなかった。それぞれの大会に、記録、感動がある。時代ごとに、競いっこだ!

 

みんな、自分の生きている時代が一番輝いていると思っている。1986には負けたくない。だから、国だけでなく選手みんなも応援しないと。

 

ざんねんマン、まだ語り足りない様子だが、重鎮の一人に優しく肩をたたかれた。後は世界中の頭脳たちが具体的なプランに落とし込んでいくだけだ。

 

~数年後。「時代別」で記録+感動を数値や文献で評価する仕組みが新たに設けられた。その仕組みは、最も優れた者を顕彰する制度にならい「GUINESS(ギネス)」と名付けられた。

 

新たな視点は、世界情勢にも光明を与えた。諍いごとがあっても、4年に1回の祭典が近づくにつれ、各国がまとまるのである。「我々が手をつながないと、GUINESSで我々世代がトップになれませんぞ」

 

世界の安寧に多大な貢献をしたざんねんマン。「やっぱヒーローの知識は役立つ」と勘違いしたか、世界中のテレビ番組を観ては情報収集にいそしむのであった。

 

※原稿は今回の五輪やその後の悲しい出来事(五輪後の戦争)が起きる前、純粋な気持ちで書きあげておりました。今回、このように世の中が乱され、平安の祭典という謳い文句も色褪せてしまい、本当に残念です。一日もはやく平安が戻ることを祈ります。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~