おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ママさん探訪】6・店の「やりがい」

スナックとは、お酒を飲むところである。

 

グラスを傾け、気が向けばマイクを握る。隣り合った客と打ち解けることも少なくない。

 

では、ママさんにとっての「やりがい」とは何だろう。お金儲けか。ステータスか。はたまた、他の何かだろうか。

 

今月、店をたたんだスナックがある。そこに私は3年ほど前から折々に通っていた。最初に訪ねたのは呑ん兵衛友達に連れられてだった。それから、その店とママさんの雰囲気が大好きになり、一人でも通ったり、職場の仲間を連れてママさんを喜ばせたりもした。

 

ママさんの店がよかったのは、そのお人柄もあるが、なんといっても気前の良さにあった。

 

「〇〇ちゃん(私の下の名前)、お歌、お上手~!」

 

一曲歌い終えるたびに、ママさんがパチパチと誉め言葉とともに、ちょっとした「おひねり」をくれる。チョコレートだったり、ヤクルトだったり。それがまた、なんともうれしい。

 

夏の祭りでおもちゃを当てた子供のような心境になった。

 

うれしくって、どんどん歌う。ほかのお客さんも、負けじとマイクを握る。お互い、応援する。いつしか一緒に歌ったりする。一つの歌で、お店に居合わせたメンバーが一節ずつマイクを回しながら歌ったりした経験は数えきれない。

 

宴もたけなわ、店を閉める丑三つ時(午前2時)になると、ようやくママさんが「は~い今日はおしまい」と帰宅を促す。ママさん、今晩も、ありがとう。

 

別れ際に、何度かあった。「これ、持って帰りよ」

 

まだ空けてない焼酎の五合瓶だ。え、こんなん、もろうていいんですか。

 

「いいんよ」

 

ママさんはニッコリするばかりだ。ありがとうございます、じゃあ遠慮なく、いただきます!

 

おひねりのチョコレート、トマトジュース、そしてたまに五号瓶を抱え、ホクホク顔で家族の眠る自宅に帰ったものだ。

 

ママさんは「もう年だから」と30年近い店の歴史に幕を下ろすことにした。御年、既に70後半だと思う。ママさんには、本当にたくさんの楽しい思い出をいただいた。

 

ママさんはなぜああも気前がよかったのか。ママさんはそのことについて明かしたことはないが、おそらく、お店をやり、お客さんが楽しく過ごすのを見るのが生きがいだったのではなかろうか。

 

人生がクライマックスを迎えようとする中、求めるのは紙幣ではなく、縁あって居合わせた一人一人の笑顔だったのではないか。

 

そうだとすると、ママさんはまさに望むものを手に入れた。それだけでなく、私を含め一人一人のお客さんも、ママさんのおかげで楽しくて忘れられない思い出をいただけた。

 

お互いに、与え合えた。

 

ママさん、ありがとう。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~