おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【歩き旅と思索】 37・弁当屋のおばちゃん

~簡単な自己紹介はこちらです~

 

ザックを背負い、黙々と歩く旅を続けていると、どこかで誰かが声を掛けてきてくれる。

 

熊本県は南部、通称「ループ橋」と呼ばれる円周形をした橋に差し掛かったときのことだ。

 

季節はまだ涼しい5月ごろだったと記憶する。さあてこれから少しばかり力を入れんとなあと思って橋を目指していると、道端のプレハブのような建物から声が掛かった。「お兄ちゃん」

 

弁当屋のおばちゃんだ。私の恰好を見て、旅の者だと気づいたのだろう。

 

「さっきもね、お兄ちゃんと同じように旅をしているお兄ちゃんが通りかかったのよ」

 

おばちゃんによると、自転車をこいで長旅をしている様子の若者がいたのだという。

 

「そのお兄ちゃんにもあげたから」

 

おばちゃんは、つくりたてであろうお弁当箱を一つ、私に手渡してくださった。食べなさい、これで元気つけて、残りの旅を頑張りなさい。そういう励ましを、まだ温かみのある包みから感じることができた。

 

このおばちゃんは、このときもそうだけれど、これまでも、めぐり合わせた人に、温かい気持ちをいっぱいに渡し続けてこられたのだろう。おそらく、これからも。

 

私は礼を述べ、ありがたく頂戴した。その足で、ループ橋に向かっていった。上りだったか下りだったか覚えていない(上りだったかな?)が、あの長い橋から望む南側(鹿児島方面)の光景は非常に雄大で心穏やかにさせられた。

 

心が満たされたのには、おばちゃんのお弁当という心のホカ弁も抱えていたことも間違いない。

 

ひとつの風景、記憶に残る心象のそれぞれに、こうした人との出会いがある。いただきものは、それ自体ありがたいが、それ以上にその人の心の温かさを分け与えていただける。それがエネルギーになり、20年近くたった今も忘れられない思い出となっている。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~