おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ざんねんマンと行く】 ~第28話・〇〇党vs◇◇教の顛末(中)~

孤立無援状態のざんねんマン、淹れたてのコーヒーを一口すすると、“反撃”ののろしをあげた。

 

さっきからお話伺ってますとねえ、お2人とも似すぎなんですよ。何ですか、綱領だとか、教理だとか。要は家訓みたいなもんでしょう?名前が違うだけなんじゃないですか。


「なんだとう?!我々の綱領は、そんな軽いものじゃ、ないんだぞう!」


山下氏が立ち上がった。綱領とは、政党の根幹を支える思想・行動規範である。これを守ってこそ、秩序が保たれ、平和な社会を実現することができるのだ。


「そうだそうだ!我々の教理も、同じだ!」


川上氏が続いた。教理とは、信仰生活のよりどころとなる、言葉の羅針盤である。日々、この指針に従い、暮らすことによって、生きながらに安心(あんじん)を得ることができるのだ。


やっぱり、似たようなものじゃないですか。


ざんねんマンの、ひねりのない素朴な切り返しが、かえって山下・川上連合に動揺をもたらした。たしかに、似ているっちゃあ、似ている・・・


それにですよ。お二人ともユートピアみたいな社会目指してらっしゃいますけど、それは素晴らしいんだけど、やっぱ脱落する人もいるわけですよ。


だってそうでしょ、山下さんの業界でも、悪いことやらかして「党籍はく奪」される人、結構いるでしょう。川上さんとこも同じ。信仰に泥を塗るようなことして、「破門」される人がどれだけいることか。


ええい、この際もろもろ言うたりますよ。今度はね、川上さん。あなたの業界ね、お酒はNGってところが多いですけれど、「般若湯(はんにゃとう)」ってカッコいい名前つけてお酒をたしなんでいる方たちがいるの、知っているんですよ。山下さんとこはそもそも酒がないと人脈広がりませんしなあ。


まあでもね、一本筋の通ったところがあるのもお2人の業界の特徴ですかね。川上さんとこは、信徒の告白(つまり懺悔)を耳にした宗教者は、決して他人に漏らすことはありませんよね。それは信仰の証でもある。山下さんの方もね、政治家御用達の料亭がありますよね、そこの女将(おかみ)さんは、店で見聞きしたことは墓場まで持っていくもんだ。それが女将の本分だからね。


どっちも鼻っ柱が強いところがある。一方で、脱落する人も出る。こっそり、ちょびっとわるさをする人もいる。でも最終的には、掲げる理想に向かって、愚直に歩みを進めているのだ。その行為を「政治」という目線でとらえるか、「宗教」という目線でとらえるかの、違いに過ぎない。そう、私は思います。


うむ・・・


山下・川上連合軍の動きが、止まった。たしかに、言いえているところは、ある。お互いに、目指すところは同じなのだ。単に、好みの違い、といえるのかもしれない。


「ありがとう、おじさん」


山下、川上両氏から初めて笑顔が漏れた。握手を求められたざんねんマン、「これにて一件落着」と安堵のため息を漏らした。


この後、予想もしない展開が待ち受けていることを、知る由もないのであった。