おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ざんねんマンと行く】 ~第26話・ほじくり怪獣・ホジクロンとの闘い(上)~

ババババ・・・

 

朝から上空が騒がしい。アパートの窓を開けると、複数機のヘリが一直線にどこかへ向かっていくのが見えた。

 

マスコミか。何かが起きているみたいだな。

 

人助けのヒーロー・ざんねんマン、不穏な空気を感じ取るや、手作りマントを羽織り、ヨイサーと景気づけの一声とともに大空へ翔けた。

 

ヘリの一群は、やがて郊外の高級住宅地上空で止まった。群れの真下に、何か変な生き物が見える。体長3メートルほどか。SF映画に出てくる、宇宙怪獣のような見てくれだ。

 

怪獣は一軒の民家の前で立ち止まった。長い舌を使い、玄関を器用に空けるや室内のお宝を物色しているようだ。やがて何かを巻き取ったか、舌をシュルシュルと引っ込めてきた。

 

グルグルに巻いた舌先がとらえていたのは、高級品であろう和牛の冷凍肉と、つまみに合いそうなイカの一夜干し。家人が無抵抗なのをいいことに、白昼堂々と盗っ人業をやらかしよる。

 

ムヒョヒョヒョヒョ~ン!

 

怪獣が寄声をあげた。人間たちを小馬鹿にしたような、間の抜けた啼き声が、聞く側の心をささくれ立たせる。

 

さっさと誰か、奴を退治できないものか。怪獣にしては小ぶりだし、特殊な熱線なんかも出していないぞ。捕縛するか、麻酔銃で眠らせられないのかー。

 

自分の出る幕でもないとばかりに、ざんねんマンが小首をかしげたときだった。怪獣が空を見上げ、突然ビビビーと光線を発した。と、幅100メートルほどの巨大なバーチャルスクリーンが現れた。

 

瓶ビールが乱立するテーブルが映し出された。居酒屋のようだ。広間の一画で、屈強な男たちが大宴会を繰り広げている。盛り上がるのはいいことだが、少々度が過ぎたか。トイレから戻ってきた十数人が、ネクタイをふんどし代わりとばかりに素肌に巻き付けて現れた。「SUMO~」と雄たけびをあげ、しこをノシノシと踏みだした。反則スレスレの恰好は仲間の大爆笑をかっさらったが、周りの飲み会グループからはキンキンのジョッキよりも冷たい視線を浴びてしまった。

 

映っている一団は、あろうことか、怪獣を取り囲んでいる特殊対策班のメンバーであった。

 

宴会で羽目を外し、居酒屋から出禁を喰らい、お偉いさんからこっぴどく叱られた情けない出来事。もう思い出したくない過去を、その怪獣は目に見える形でほじくり返してきた。

 

どうやらこの怪獣は、人に触れられたくない秘密や過去を白日の下にさらすという、実に面倒な特殊能力を持っているようだ。だから、誰も近づきたくない。手が出せない。その証拠に、羞恥と恥辱にまみれた特殊対策班の一行は、もはや仕事も手につかないとばかりにうなだれてしまっている。

 

こりゃまた厄介な相手だぞ。

 

一戦交えるか迷うざんねんマンを出し抜くかのように、ロボットスーツに身を包んだ謎の人物が怪獣に立ち向かっていった。どこか懐かしい恰好だーと記憶をたどると、バブル期にそこそこ注目を集めた特撮ヒーローだと気づいた。

 

我こそは悪者を退治せんーと迫力をみなぎらせるロボットスーツ。だが、怪獣はひるまない。再び光線を放つと、スクリーン上に大きな折れ線グラフを映し出した。

 

視聴率の推移だった。はじめこそ右肩上がりで伸びていたが、視聴者に飽きがきて頭打ちに。やがて下降曲線をたどり、打ち切りとなった寂しき足取りがあらためて思い起こされた。「もう君はお呼ばれされてないの」と言わんばかりに、怪獣がスクリーンを何度も指さした。意気消沈したロボットスーツ、肩を落とすと踵を返し、野次馬の群れに消えていった。

 

かくなるうえは、自分の出番か。

 

ざんねんマン、覚悟を決めた。官邸で「ほじくり怪獣・ホジクロン」と名付けられた珍獣に向かい、一歩一歩近づいていった。

 

小粒のヒーロー、見せ場をつくれるか?!

 

~(下)に続く~

 

週末出動!