おじさん少年の記

いつまでも少年ではない。老いもしない。

【サラリーマン・宇宙感動記】8・格安の望遠鏡でこそ感じる宇宙のダイナミズム

アナログ機器のほうがいい仕事をすることもある。

 

40手前のころ、単身赴任先のアパートでクリスマスを迎えた。

 

「お届け物」ですと連絡があり、受け取ったものは細長い段ボール箱だった。

 

望遠鏡だった。

 

私が当時、星の魅力に目覚めてしまい、やたら電話で妻に星やら宇宙やらの話をしていたのが影響したようだった。

 

「サンタさんが、こんなのくれたよ!」

 

興奮気味に語る私を、電話越しの妻は嬉しそうに聞いてくれた。

 

マイホームやらローンやらでぜいたくはできない。サンタの贈り物は、決して高価なものとはいえなかったが、私は贈ってくれた誰かさんの気持ちがうれしく、また、星空に近づける喜びもあって、夜が待ちきれなかった。

 

日が暮れた。ビル群の街灯に邪魔されながらも、筒先を夜空に向けた。まずはお月さまがターゲットだ。

 

このお月さま、動く動く。

 

クレーターでぼこぼこになった地表をとらえたかと思うと、スルスルと画面が横に流れ、やがて球体ごとレンズから外れてしまう。

 

何度もチャレンジする。やがて欲が出て、もうちょっとアップで観たいと思い、レンズを変えて倍率を上げる。難度は上がるが、面白い。山のような起伏が見える。ちょっとしたジオラマを眺めているような感覚に浸る。だが、うっとりする間もなく地表がレンズの向こうに消え去っていく。

 

月も動けば、地球も動いている。そうだった。

 

サンタのくれた望遠鏡は、子どもの入門向けのようなもので、天体の自動追尾といった高度な機能はついていなかった。それがあれば、一度レンズに収めるだけでレンズからそれることはない。そうした先端機材に比べると、私の「相棒」はいささか不便ではあったのだが、おかげで私は地球のダイナミックな動きを身近に感じることができた。

 

私たちの地球は、時速約1400キロという途方もない速さで自転をし、時速11万キロで太陽の周りを駆けている。地球は、とどまることなく動き続けている。

 

私たちがいるのは、まさに宇宙船地球号なのだ。

 

その事実を体で感じさせてくれたサンタ望遠鏡に、素朴に感謝し、今も相棒として付き合い続けている。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~

 

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