おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【歩き旅と思索】 43・唯一出逢わなかったもの

~簡単な自己紹介はこちらです~

 

お天道様が上にある間、ひたすら歩く旅では、なんやかやさまざまな出逢いがある。

 

道端のお地蔵様。ジュースを差し入れしてくれる地元の住民。友達も家族もいない様子の野良犬。それぞれ、思い出があり、心の滋養となっている。

 

それでも、これまで全く出逢わなかったものがある。

 

ロマンスだ。

 

私は20代半ばまで彼女がいたことがなく、モテたことも当然なく、異性とまともに話をしたなど殆どなかった。

 

そういう経緯もあり、旅の道中では正直なところ、人生をバラ色に染め上げてくれそうなめぐり逢いを期待していた。

 

伊豆半島は西海岸を歩いたときのことだ。

 

伊豆といえば「伊豆の踊子」。日中歩き倒していれば、ひょっとしたら踊子さんのような妙齢の美しい異性に出逢うこともあったりするんじゃないかー。阿呆のような発想だが、根拠もなく期待を抱き、旅に出た。

 

沼津を出立し、西北の突端にあるキャンプ場で一泊。そこから海岸線沿いに延々と歩いた。

 

道の要所要所で、面白い標識を見つけた。「恋人岬」

 

いい名前だ。雰囲気がある。僕もおすそわけにあずかりたい。そう思ったが、当然ながら道中目にする若者はカップルばかりだった。私のような独り身の旅人は見当たらなかった。

 

寂しい、寂しいぞ。

 

昼過ぎだったか、喉が異常にかわいていたところに、とあるおしゃれな喫茶店(だったかな)を見つけた。ちょっと恥ずかしかったけど、店の中に入った。

 

やっぱりカップルばっかりだ。ものすごい場違い感を抱きながら、フルーツジュースを頼んだ。

 

これが、悲しいほどにうまかった。

 

カップルたちが逢瀬の幸せをかみしめている傍らで、私は一人「うんめえ!」とジュースのおいしさをかみしめていたのである。

 

伊豆の旅では、その後もまったく異性との出会いはなかった。ほかのルートでも同じだった。味気のない、野郎一人旅。すがすがしいほどに彩りに乏しいのが、私の歩き旅だ。

 

ただ、幸いというか、日常生活で偶然の出逢いをいただき、現在は家庭を構えることができている。

 

ロマンスへの執着から自由になった今、自分の歩んできた野郎旅人生をしこしこと掘り下げ、楽しんでいくつもりである。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~