【ざんねんマンと行く】 第33話・怒りか幸せか(上)
プルルル
週末。夜9時。見知らぬ番号から着信が入った。まったく、 ひと心地つこうかっていうときに、どなたですか。
「夜分にすみませんね。わたくしは〇〇テレビのディレクター、 山崎と申します」
おおお、テレビの人でしたか。いなかっぺのざんねんマン、 思わず興奮で声が裏返る。なにか、 インタビューか何かの相談かな。うひょひょ。
目立つことにこのうえもない快感を覚える男だけに、 ほっぺたはすでに緩み切っている。で、 わたくしめに何の御用でございましょうか。
「あぁ、いえですね、 弊社では毎晩ニュース番組を放送しておるのですが、 ここだけの話、最近視聴率が低くって。 ちょっと新しい風を吹き込みたいなと思っているところなんです。 そこでですね、 人助けのプロとして最近つとにご活躍中のざんねんマン様に、 レギュラーのコメンテーターとして登場していただけないかと」
にゅ、ニュース番組と。コメンテーターと。しかも、 レギュラーとな・・・
辛抱、たまらん。
華やかなステージをイメージしただけで、 自尊心がこのうえないほどにくすぐられる。もう、 とろけてしまいそうだ。
ええもう、私でよければ、ぜひ。
「ほんとですか!こちらのほうこそ、感謝感謝で。 なんといってもざんねんマンさんは口が悪いと申しますか、 歯に衣着せぬご発言で物議をかもす、いや、 世相を抉り出しておられるとネット界の評判でいらっしゃいますか らね」
山崎がいっているのは、 以前瀬戸内で開かれたイベントでのワンシーンのことだった。 とあるITベンチャーが開発した言語翻訳アプリを、 ネット環境のない無人島で数日間過ごしてもらうという企画だった 。 そこでざんねんマンは主催者の期待する答えとは裏腹のコメントを してしまい、経営陣の逆鱗に触れてしまった。だが、 その率直な意見がかえってアプリの確かな能力を裏付ける形になり 、結果的にはそこそこの売れ行きを保証することになった。
ああ、あのことか。もう思い出したくないけど、 まあ評価してくれたんなら、いっか。
何事においてもテンポが速いテレビ局、 ざんねんマンの都合もたいして聞かず、「 それじゃあ早速明日からいきましょうか」 などと段取りを組んでいった。コメントのタイミング、 その中身などについて質問しても、「あー大丈夫ですよ、 キャスターがうまく料理しますから」といなされる始末だった。
あっという間に24時間が過ぎた。オンエアー5分前。 緊張で額から汗がしたたるざんねんマンに、 美人キャスターの細川は「硬くなるのは最初だけですよ」 と励ましなのかおどしなのか分からない一言を掛けてくれた。
5・4・3・2・1
カウントダウンが、始まった。いよいよデビューだ。
~(下)に続く~明日出動!