日本文化は酒にある。酒は飲み屋にあり、その魅力は地方都市に宿る。
地方都市の飲み屋で幅を利かせているのが、我らがスナックのママさんである。
スナックではときとして、お客さんではなくママさんが主導権を握る。ママさんが王様であり、客は召使になる。ママさんが黒といえば黒になり、翌日白といえば白になる。
そんなわがままなママさんになぜか惹きこまれてしまう酔狂な客がどの店にもおり、そういう輩が店を支えたりしている。
若いころはキャバレーで売れっ子さんだったというママさんがいた。知り合いに連れられて足を運んだときからよくしていただき、多少ではあるが気に入っていただけた(と思う)。
帰りがけ、そのママさんがこっそり私に耳打ちしてきた。
「〇〇君(私の名前)はいい子だから、今度から〇〇君だけ2000円にしてあげる」
ええ!まじっすか!
当時独身だった私は小躍りした。まあもともとそのお店は居放題飲み放題3000円のお店だったのだが、それでも1000円のディスカウントはうれしかった。何より、私だけに特別価格でサービスしていただけるというのが妙に優越感をくすぐった。
そういうことがあってから、翌週だったか、あらためてママさんとこに足を運んだ。たしか、一人だったろうか。
楽しく飲み、歌わせてもらった。ママさんは聞き上手で愛嬌もあり、とても楽しかった。
さて、ご精算といくかなあ。ママさん、お勘定。
ママさん、さらりと答えた。
「はい、3000円」
変わらんのかーい!
という心の叫びを口にする勇気もなく、静かに笑みを浮かべながら「楽しかったです」といわれた代金をお支払いしたのである。
あのときのママさんのディスカウント発言はなんだったのか、ひょっとしたら次お店にいったら今度こそは本当に値下げしてくれるんじゃないか、いろいろ期待もあったが、やっぱり3000円に落ち着いた。
まあその、わざわざ上げてから落とさんでほしかった。トホホ
とまれ、当時の「〇〇君だけ2000円」と、あらためて訪れたときの素面で「3000円」発言は今でも鮮烈に覚えている。
これがスナックか。これがママさんなのか。
日本のママさん、やりよりますのう。
かわいい朝令暮改も、ママさんの魅力なのである。
そう思わんと、やっとられん!
と正面切っては言えないので、ここでボヤくことにする。
~お相手くださり、ありがとうございました~