おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【ざんねんマンと行く】 第33話・「マジで彼女がほしい」のに恥ずかしくって動けない男子の顛末(下)

(上)はこちらです~

 

彼女がほしくてたまらない青年は、ざんねんマンの適当とも投げやりとも思える提案を胸に、家路についた。

 

おじさんの言うとおり、たしかに今のままじゃ、彼女ゲットは難しそうだ。同世代の子を前にしたら、ドギマギして何もできない。とりあえずは、前後の世代で、練習だ!

 

青年は、今ふうの男の子ではなかったけれど、裏腹がなく、じいちゃんばあちゃんには好かれるタイプだった。

 

「練習練習」とばかりに、通っている学校のボランティアサークルに入った。地域の幼稚園や老人ホームに足を運び、レエクリエーションのスタッフをするのだ。

 

青年は子どものころからひょうきんなところがあり、天然のコメディアンのようなリアクションがちびっ子にウケた。「兄ちゃん兄ちゃ~ん」と足元に寄ってこられ、相手の仕方に困るほどだった。おめめのクリクリしたかわいらしいお嬢ちゃんもたくさんいた。当然、ドギマギすることもなかった。だって、ちびっ子だもの。邪心のない、澄んだ心に接し、青年は自分の心まで潤ってくるのを感じ、しあわせに浸った。

 

老人ホームでも、意外と歓迎された。青年は年配の人に対する尊敬の念を抱いて育った。おじいちゃんでも、おばあちゃんでも、その語るところには必ず学ぶところがあると無意識的に感じていた。じっと耳を傾ける姿勢は、車いすのおばあちゃんたちのハートに灯をつけた。「お兄ちゃんお兄ちゃん、こっちきて~」

 

呼ばれるままにかけつけ、ホストさながらに耳を傾け続けた。昔はさぞ美しかったのだろうと思わせる貴婦人もいらっしゃったが、緊張することはなかった。そのお顔には年齢にふさわしい分だけのしわが刻まれていた。リラックスして、いつしか年の離れた友達になることができた。

 

なんだ、女の子といったって、みんなおんなじじゃないか。

 

誰しも、かつては遊び心いっぱいのちびっ子だった。そして、いずれはしわのかわいいおばあちゃんになる。近づきがたい存在なんかじゃ、ないのかもしれない。

 

かぐわしい乙女の時代は、女性の奥深い人生の一幕にしか過ぎないのだろう。

 

青年は、くぐもっていた視界の向こうにようやく青い空が見えたような気がした。

 

そこからは、少しずつ状況が変わっていった。学校で、バイトで、同世代の女の子と話すことがあっても、以前ほど固くなることはなくなった。この子だって、ちょっと前までいたずら心いっぱいのちびっ子だったんだ。あの匂いたつ美貌の先輩だって、いずれはグレーヘアーの愛嬌あふれるおばあちゃんになるんだろう。

 

緊張することなんか、ないんだ。

 

気持ちにゆとりが生まれたことで、青年は同世代の女の子と少しずつながら話せるようになった。

 

やった、もう少しだ、もう少しで念願の『彼女』が、できるぞ!

 

数か月たち、しかし青年の宿願はまだ成就されていなかった。

 

なぜだ。なぜなんだ。

 

再び、あのしがないおじさんの下を訪ねた。「僕の一体、何がいけないんでしょうか」

 

しばしの沈黙の後、人助けのヒーローは口を開いた。

 

青年よ、まずは足元から見つめ直さないとね。

 

手鏡を向けられた。青年は気付いた。髭、そってないや・・・

 

身だしなみ!それから、自分磨き!それやってないと、ぜってー彼女、できないから!

 

ざんねんマンに喝を入れられ、青年はハッとした表情を見せた。「そりゃ、そうですよね!だよなー俺!自分磨き、自分磨き!これだぁ~」

 

青年は最後の難関に挑まんとばかりに、全身を震わせ再び秋風の中へ駆け出していった。

 

頑張れ、青年。あとは自分の努力次第だ。

 

今日もなんとか人助けをこなしたざんねんマン。軽やかな気持ちで大空を見上げると、既に小粒ほどに遠ざかった青年に向かって叫んだ。

 

彼女できたら、友達紹介してくれよ~!


~お読みくださり、ありがとうございました~