万葉集の素晴らしいところは、自然風景と人の心が歌を通して見事に一致していることだ。
見たもの、聞いたもの、触れたもの感じたものに、自分の心をそのまま重ね合わせる。自然に対して優しくなれる。そう感じる自分の心も柔らかく、温かくなる。癒やされる。
万葉の優れた歌を紹介する本を読み、次の一首を知った。
夏の野の
繁みに咲ける
姫百合の
知らえぬ恋は
苦しきものそ
(巻8・1500)
大意を説明する必要すらないかと思われるが、念のため
夏の野の
茂みに咲いている
ヒメユリのように
(他の雄々しく生える雑草に隠れ、その存在を)気づいてもらえない恋は
苦しいものですよ
まるがっこの部分は、私の類推だ。詠み手の本意とは違うところがあるかもしれないが、受け止め方は自由ということでご容赦いただきたい。
とにかくこの歌、詠み手の繊細な心境がひしと伝わってくる。
詠み手の女性(ヒメユリ)が自らの思いを伝えたくても、
他の人々(周りの雑草)を押しのけてまでするずうずうしさは発揮したくない。
ただ、相手(ヒメユリのそばを通り掛かる人)に気づいてほしい。
野に咲く花に自らを重ね、現代人の心にも響く歌を詠み上げた。
万葉の時代に生きた人々の、みずみずしい心とものの見方に、心が洗われる気持ちがする。
~お読みくださり、ありがとうございました~