おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【サラリーマン・癒やしの和歌】10・技巧に走らない美しさ

疲れたサラリーマンに、古の和歌が響く。

 

~簡単な自己紹介 

 

万葉集は日本人最古の和歌集といわれる。歴史の古さもさることながら、その表現力、ストレートに感情を伝える素直さに引き込まれる。

 

この歌は、文字を目で追っていくだけでも心がうずく。

 

天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ

天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり

あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ 秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり

うつせみも かくのみならし

紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ

吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく うつろふ見れば

にはたづみ 流るる涙 留めかねつも

(巻19・4160番)

 

訳をつけるのも無粋なので、読んだままを感じていただければと思う。詠み手は万葉の天才歌人大伴家持だ。

 

当時は仏教思想が日本でも根付こうとしていた。生老病死。片時もとどまることなく物事が変わりつづける現実。栄える者もいずれは滅びる。その論理を、頭ではなく、自然の情景とともに肌でつかみとった。

 

紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り

 

朝の笑み 夕(ゆうべ)変らひ

 

1000年以上の時を経ても、その伝えんとするところ、寂寥感が、ひしと伝わる。

 

そして最後。

 

にはたづみ 流るる涙 留めかねつも

 

具体的な何かがあったわけではないかもしれない。こうした情景に思いを至らせたとき、思わず涙がほおを伝ったのではないだろうか。

 

言葉をつくらず、気取らず、それでいて、純真素朴そのままの心情を見事に詠いあげている。

 

家持の天才はもちろんだが、万葉の時代を生きた人々の心の豊かさ、深さに感じ入るばかりだ。

 

~お読みくださり、ありがとうございました~