【サラリーマン・癒やしの和歌】5・風との触れ合いが新たな言葉を生み出す
疲れたサラリーマンに、古の和歌が響く。
~簡単な自己紹介~
【サラリーマン・癒やしの和歌】1・疲れたこころに染み入る - おじさん少年の記
万葉集を読んでいると、ことばというものが実に繊細で、自然や心情の機微をありのままに的確にとらえることのできる優れた詠い手がそろっていると感じる。
この、日本人の心のバイブルともいえる大作をまとめあげた人物は、歌人で高級官僚だった大伴家持だ。家持の歌はどれも細やかで情愛に満ちた表現であふれている。その中でも一首は実に素晴らしいと感じたのでご紹介したい。
我が宿(やど)の
いささ群竹(むらたけ)
吹く風の
音のかそけき
この夕べかも
(大意)
我が家の庭に
群生している竹に
吹く風の
音のかすかな
この夕べであることだ
この作品に出てくる「かそけき」という単語は
他の史料にもほとんど出てこない単語なのだそうだ。
おそらく「かそけし」を終止形とする形容詞だろう。
群生する竹の、細く薄い笹の葉にさらさらと吹きそよぐ風が、
聴こえるか聴こえないかの静かな振動を伝えてきた。
そのわずかな空気の揺れ、鼓膜との触れ合いを、家持は
「かそけき」
という新たな単語で表現した。
こうした、柔軟で常識にとらわれないものの見方、表現をするところが、
万葉歌人たちの素晴らしいところだ。
まだまだ探ればあるはずで、楽しみながらページをめくっていきたい。
~お読みくださり、ありがとうございました~