【歩き旅と思索】 ~9・五感がそれぞれに交流する
~簡単な自己紹介はこちらになります~
栃木県を鹿沼市から日光に向けて歩いていたときのことだ。
幹回りが実に太く、歴史を感じさせる杉並木に沿って、初夏の新緑を吸い込みながら徒歩旅を存分に満喫していた。
やや涼しさを感じさせる晴れ日だったが、午後過ぎてから少し小雨がぱらつきはじめた。
折り畳み傘を出し、黙々と歩く。勢いのない雨の、ポツ、ポツ、ポツという控えめな音が、断続的に耳に迫る。
歩行者の誰とも行き交うことのない林道で、静かにこの雨音と緑の香りを楽しんだ。
あるところで少し視界が開け、水の張った田んぼが何枚か広がった。どこか涼しげで、眺める私の瞳も自然と癒された。
田んぼの水面に、先ほどからぱらつく雨粒たちが、ぴたん、ぴたんと浸り、同心円状に小さな波紋を広げているのが見えた。
私がそれまで味わっていた、ぽつん、ぽつんが、今度は目の前で、ゆっくりと広がる輪に姿を変えていった。
聴くものから、眺めるものへ。
美しいものは、自在に形を変えるのか。
不思議な感慨を覚えた。
~お読みくださり、ありがとうございました~