おじさん少年の記

疲れた時代に、癒やしの言葉を。からだはおじさん、こころは少年。

【サラリーマン・妄想SHOW】2・相棒

これは、しがないサラリーマンが抱いた、妄想・ファンタジーの記録である。

 

プルルル

 

私「おー、ご無沙汰です。元気にしてますか」

 

山下「ボチボチですな。それはそうと、また“出勤”をお願いしたくて」

 

私「仕事ですな。そいつぁありがたい。私もねぇ、最近喉が渇いてたんですよ」

 

山下「じゃあ明後日、赤坂で」

 


・・2日後・・

 


私「山下さん!こっちです!」

 

山下「さすが川上さん。キめるときはキめますな。ビシッとした背広姿。貫禄充分」

 

いやまあ。

 

山下「今日のお客さんは、プライム上場の専務さんですから、よろしく頼みますよ」

 

私「まかせなすってっぇ」

 

・・・そろって料亭Xへ・・・

 

ガラガラ(2人の待つ個室に初老の紳士が登場)

 

山下(やや緊張気味)「いやー専務、今日はお呼びたてしてしまいまして、すいません。さあこちらへ」(上座へ促す)

 

田中専務「いやまあ、気を使うのはよしたまえ。私はねえ、固いのが嫌いなんだよ」

 

山下『(心の声で)うそばっか。粗相があったら許してくれないタイプなんだよな。気が張り詰めるぜ』

 

(山下、額を汗でにじませ専務に酒を注ぐ)

 

田中専務「ところで隣の方は」

 

山下「いやまあ、なんといいますか、『相棒』とでも申しましょうか」

 

私「ええ、そんなところです。どうもごひいきに」

 

田中専務(むっつり顔で)「まあ、ええわ。今日は飲むとしますかのう」

 


・・・小半時が経過。田中専務、やや出来上がってくる

 


田中専務「でね、聞いてくださいよ。うちの部下どもがですね、物分かりが悪くって。最悪なんですよ」

 

山下(出た、専務の愚痴もどき。下手に相槌でも打っちゃったりしたら、「おめえは八方美人なタイプだな」なんかいって、商談を反故にされかねないんだ。まったく気が抜けないよ)

 

(山下、さりげなく隣の私に目くばせする。『そろそろ出番ですよ』)

 

私(落ち着いた野太い声で)「なるほど、『物分かりが悪い』と」

 

山下『(顔で語る)おい、大丈夫かよ。けんか売ったらダメだぞ!』

 

田中専務「いかにも、そうだが。俺の言っていることに、何か問題でも(額に青筋が立つ)」

 

私「いやいや。私は思ったのですが、それはつまり、専務が聡明すぎるということではないかと。物事が見通せる方なんて、世の中にそんなにいやしません。部下の方が悪いんじゃないんです。専務が特別すぎるんです」

 

田中専務「(真顔で褒められ、思わず歯が浮く)え、まあ、それほどでも・・」

 

私「そして、このネクタイ。渋い。渋いですよ、専務!私は好きです(じっとネクタイを見つめる)」

 

田中専務『(心の声で)こいつ、俺の本当のカッコいいところ、分かってやがる!やっぱ世の中、分かる奴は分かるんだ』

 


・・さらに小半時が経過・・

 


田中専務「それでよお、俺もよお、若いころはちったあモテたんだぜ」

 

私「分かりますよ!なんたって、この厚い胸板!レディーの憧れの的だったんでしょう、このこの、罪男!(肘で田中専務の脇腹をこちょこちょする)」

 

田中専務「(こちょこちょされるのは中学生以来。何かがはじける)お、おふう~って、このたわけ!初恋の子にもこちょぐられたことないのに!」

 

私「そんな照れちゃって。カワイイかも!さすが紅顔の美少年でブイブイいわせただけある!」

 

田中専務「それ以上いうな、もう本当に恥ずかしいから。いくら俺が確かにイケてる奴だからって、みなまで言わなくてもいいよ(デレデレ顔)」

 

私「もーこの、余裕っぷりが許せない!またこちょこちょしちゃうから~」

 

田中専務「勘弁してくれよ、俺本当にこちょこちょ弱いんだよ~」

 

・・・おっさん同士のアホのようなやりとりが続く・・・

 

翌日。

 

プルルル

 

(自宅の枕元で)私「あ、山下さん。昨日はお疲れ様でした。で、どうでしたか」

 

山下「もうね、本当ね、ありがと。商談、成立しましたよ。専務がね、『昨晩は楽しかった。あのこちょこちょさんをまた呼んでくれないか』だって。助かりました」

 

私「よかったよかった」

 

山下「えっと・・お代は、いつものように『いらない』ということで、いいんでしたっけ?」

 

私「もちろん。私の仕事はね、ただ飯ただ酒ぐらいがちょうどいいんですわ」

 

山下「あなたって人は、ホント変わってますねえ」

 

・・・

 

世の中にはいろんな仕事がある。企業の商談成立を請け負う宴会師のような職業だって、あってもおかしくない。

 

報酬?そんな堅苦しいもの、いらねえいらねえ。宵越しの銭の代わりに、酒肴さえあればありがてえってなもんで。そっちのほうが気楽だし、呑ん兵衛の本領が発揮できるんでさあ。

 

こんな「相棒」仕事の依頼が舞い込むことを、呑ん兵衛たる私は心ひそかに待ち望んでいる。

 

~お付き合いくださり、本当にありがとうございました~