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【ざんねんマンと行く】 ~第14話・語学学習がいらなくなる時代はくるのか(上)~ - おじさん少年の記
「GENIOUSなしの生活には、もう戻れません」。そう答えてくれると期待していた山田だったが、空気の読めないざんねんマンにあえなく裏切られてしまった。
いやまあ、あればあるで助かりますけど、なければないで、いけるかなと。確かにGENIOUSがあると便利ですよ。でもね、こいつを取り上げられた残り2日間も結構刺激的でしたわ。あ、そうそう。僕の知り合った中国の拳法家のおじさんのおかげで、中国語の発音、一個マスターできましたからね。
やっぱ勉強してなんぼじゃないですかねえ。下手でもいいから。自分で外国語を話したほうが、相手の方も喜んでくれるってなもんですよ。「yi qi jia you(一起加油=一緒に頑張ろう、という意味)」ですよ!
教わったばかりの中国語をドヤ顔で語るざんねんマンに、山田は能面のように表情を失った。
この男、俺たちの期待を見事に裏切りやがった。最後の最後で、俺たちのアプリにダメ出ししてくれるとは・・
インタビューはネット中継していた。ざんねんマンはまだダラダラと会社にとってありがたくない感想を語り続けた。映像は、途中で切り上げられた。
その後、アプリを開発した会社はPR動画を配信した。だが、取り上げられていたのは前半2日間だけ。特にざんねんマンについては、インタビューの最後で「GENIOUSを使うかどうかは、値段次第ですなあ」とやや上から目線で放った一言が経営陣の逆鱗に触れてしまい、会話シーンが全カットされた(ToT)
密度の濃い4日間を終え、ざんねんマンはあらためて拳法家の男性の放った「愛人」の意味を調べてみた。「奥さん」という意味だった。安心した。それから、「小三」を調べた。男性の表情がひきつった理由が分かった。あっはっは。これだから、言語学習は面白い。僕、GENIOUSにはまだ頼らなくてもいいかな。自分の足で、チャンレジし続けてみたい。
一方、母国に帰った拳法家の男性は、自身のSNSを通じて丁寧に感想を述べていた。
「コミュニケーションを円滑にする上で、翻訳アプリは実に役立つ。ただ一方で、機械頼みになることには疑問も抱く。自ら学び、発する中でこそ生まれる心の交流というものもある。適度に機械に頼り、適度に学ぶ。このバランスが大切なのではなかろうか」
知恵に満ちた言葉は、フォロワーの支持を集めた。拳法家を含む、彼らインフルエンサーの発信もあり、GENIOUSはそれなりに普及していった。一方で、語学学習に熱を入れる人が減ることもなかった。
舌足らずのコメントが経営陣の心証を害したざんねんマン。ただ、ネット中継を見ていた視聴者からは「ゲストのくせに口は悪かったけど、話を盛ってない分説得力はあった」とそこそこ評価はされた。
宴は終わった。山田からは「もう二度とあんたには頼まん」と悪態までつかれてしまった。それでも「今度もし似たようなオファーがきたら、次こそうまい切り返しをするぞ」と下衆の根性で営業トークの練習を重ねるのであった。
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